縁もゆかりもない小国の子どもだったとしても、危険な目に遭うのがわかっていて放置は確かに寝覚めが悪い。
そう、損得勘定抜きに人道的支援に手を差し伸べようとする程度の心の余裕が…
「仕方がないな。
まあ介入することでいくらかでも森の国に伝手が出来て、炎と水が推進している無意味な戦闘を極力避ける安全保障同盟に理解を示してもらえるという可能性もあるからな」
と、錆兎は座ったばかりの椅子から立ち上がり、
「で?いつ頃、国境につく予定だ?」
と聞くと、杏寿郎は
「1週間前には国を出ていて、明後日には国境、さらにその10日後くらいには王城につくと予定らしいぞ」
と当たり前に言って、錆兎を呆れさせた。
「つまり明後日までに国境についておけということかっ!
何故もっと早く言わないっ?!」
「いや…俺がそれを聞いたのが1週間前で、最初は自分が出ようと護衛と共に準備をしていたのだが、大臣に止められたっ。
今うちが動くと嵐との全面戦争になるからなっ!
で、君に相談しようと自ら早馬を走らせたわけだっ」
と、そう言われれば、確かに杏寿郎の対応は最速だったのだろうと納得する。
「まあ君なら可能だろう?」
と、錆兎とは逆に対して慌てた様子がないのは、杏寿郎はこの親友である隣国の王にはとっておきの部隊があることを知っているからである。
「お前は……」
と、その杏寿郎の落ち着いた様子に錆兎はまたため息をついたが、そうしている時間も惜しい。
なのでドアをバン!と開けると胸から下げた銀の笛を加えて息を吹き込んだ。
一見何も音のしないその笛は、俗に言うサイレントホイッスルと呼ばれる犬にしか聞こえない笛で、鳥にしか聞こえない金の笛と共にセットで王直属の特別部隊だけに配布されている。
一刻の猶予も許されない非常時に出動する最速の部隊、稲妻隊。
どんな困難な任務もこなす水の国最強の国王直属のその部隊は、全18人が3交代、一分隊6名で構成され、王を含めて7人で稲妻のように身軽に素早く行動するためにその名がつけられた特殊部隊だ。
一日のうちの3分の1の時間は何をしていても招集がかかったら10分で王の元に集合するように義務付けられていて、王の居場所はやはり王が吹き続ける笛の音で常に同行している犬が判断する。
その笛を鳴らし続けながら錆兎は鎧を身につけマントを羽織り、一路馬屋へと急いだ。
その道々、すでに戦闘装束を身に付けた部隊員が続々と駈けつけ、馬屋に付いた時には7人揃っている。
そこで
「じゃあ俺は行ってくる。
結果はどちらにしても伝えるから自国で待っていろ」
と、振り返りもせずに伝えると、杏寿郎は
「うむ!すまないなっ。
埋め合わせは今度美味い菓子でも届けさせるから」
と、一国の王を動かすにしては随分と軽い感じの言葉を吐くが、まあ二人が気の置けない幼馴染にして親友なのは部下たちも知っているので、気にする様子はない。
そうしてその後、案内役の犬とは分かれ、王が金の笛を吹くと、今度は鷹達が飛んできて各隊員の肩に止まり、出発とあいなった。
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