生贄の祈り_ver.SBG_3_正義の味方は遅れて訪れる

――俺の領地で無体を働くとは、覚悟あってのことだろうな?

全てを運命に任せる事にして身を固くしたまま不快感に耐え続け、一体どのくらいの時が過ぎたのだろうか…
どんよりと全てが薄暗い中、それは強い光のような眩しさを持って目に耳に飛び込んできた。

凛とよく通る声。
圧倒的な存在感。

不敵な笑みを浮かべながらそう言う男はプルシアンブルーの柄の大剣を担ぎ、それとは別に腰にやはり同色の柄の若干細身の長剣、そしてその長剣よりはやや短めの小剣の2本の剣を携帯していた。

そして襲撃者達に声をかけると、腰にさしている方の2本の剣を抜いてそれぞれを両手に構える。
そのどちらも襲撃者達の掲げた多くの松明の灯りが反射して光っていて、まるで燃えているように見えた。

翻る白いマントの下には細かい金の細工の入った白銀に光る鎧。

そしてその鎧の上、暗闇の中赤く照らされるのはまるで精巧な細工師が作った彫刻のように一部のズレもなく美しく整った顔。

少し吊り目がちな涼やかな目におさまる瞳の色が世にも珍しい透明感のある藤色なのもあいまって、どこかこの世のモノとは思えない神秘的な雰囲気を醸し出している。

精悍で立派という言葉が良く似合うような…まるで絵物語の勇者のような佇まい。
オーラがすでに圧倒的に光の側の人間だと思う。
どちらにしろ、男は上に立つ者特有の輝きを持ってその場に立っていた。

この場の空気すらその下に従えて

――報いを受けろ
とその形の良い唇から発せられた言葉が戦闘の合図となった。


まるで流れるような滑らかな動き…
そのくせ弱々しさなど欠片もなく力強い。

どう考えても圧倒的不利であろう人数差というのもバカバカしいレベルの、10人以上はいる敵を1人で楽々と切り刻んで行く。

右の剣で上手に敵の刃を流しつつ、左の剣で切り裂いて、襲撃者に血飛沫をあげさせていく男から義勇は目が離せなくなった。

男は本当に冒険活劇の主人公のように強かった。
襲撃者とはいえ、確かに目の前で人が倒れて命を落としていっているにも関わらず、どこか軽快で小気味よい。

義勇はすでにさきほどまでの恐ろしさや不安など消し飛んでしまって、思わず拍手をしたいような気持にすらなった。

そんな風に義勇が見惚れている間に、あれよあれよとほとんどの襲撃者が勇者の剣の前に倒れ伏していったことで、生き残っている襲撃者達の方もわが身の事を考えたらしい。

「逃げるぞっ!!」
と、数名が言い始め、男に向かって行っている数名以外は方向転換を始めた。
義勇を抱えていた男も同じくだ。

「お前ら、足止めしろっ!!」
と、どうやらボスらしい男が指示をして、義勇を抱えた男を反対方向へと誘導した。

しかしその瞬間、勇者の藤色の目が義勇を抱えた襲撃者の姿を捉える。

そして、
「おい!忘れものだっ!!」
と、何か銀の鎖のような物が飛んできて、義勇を抱えた男の首回りをクルクルと回って、その首を締めあげた。

ぐぎゃっと言うようなカエルが潰れたような声…

勢いよく後ろへ引っ張られるような感覚。

そのまま勢い余って宙に放り出されて地面に激突するのかとぎゅっと目をつぶるが覚悟していた衝撃はなく、その代わりに一瞬固い腕の中に横抱きに抱え込まれて、

――少しの間大人しくしていてくれ
と、耳元で低く囁かれたあとに即地面の上に降ろされた。

目的であるらしい義勇を取られた事で、逃げかけていた襲撃者達のうち多数が戻ってくる。
どうやら元々残って男の相手をしていた襲撃者はもう倒されているらしい。

「ああ、感心な事だな。最後の一人が倒れるまでやるということか」
勇者はにこやかにそう言って、それから羽織っていたマントの留め具を外してマントを脱ぐと、それをパサリと義勇の上へと落としてその上からくしゃりと頭を撫でる。
そうしておいて、

――汚れないようにな、それ被っておいてくれ

と、存外に優しく聞こえる声でそう言って襲撃者達の方へと向き直った。








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