──善行も悪行も天はみているのだと思うぞ
結局その日はさすがに焼肉は中止になったと言うか…不死川を逮捕した警察から事情を聞きたいと同行を求められたので、警察で事情を話したあとにそのまま解散となった。
そして後日…改めて錆兎と義勇の住むマンションで焼肉会を開いている。
鉄板の半分のスペースはものすごい勢いで焼いて食べる杏寿郎スペースで、あとの半分は普通に焼く宇髄と村田、それに丁寧に丁寧にゆっくり焼く義勇のスペースだ。
──これは、錆兎の分。
と一枚一枚焼く義勇の横で、錆兎は自分が手早く焼いた肉をキッチンバサミで切って義勇の小さな口に放り込むのに余念がない。
そんな風に肉や野菜を焼きながら、程よく酒も入ったところで、いきなり杏寿郎がいつものどでかい声で言った。
キ~ン!とデカいその声に思わず村田は耳を塞ぎ、義勇は相変わらず錆兎の分と決めた肉を凝視していて、錆兎は義勇の口に放り込むカボチャを小さく切っている。
そんな中で唯一宇髄が
「あ~…まあなぁ…。
社員旅行の諸々を口止めしても、結局あいつ塀の中に行くことになったしなぁ…」
とそれに答えて苦笑する。
そう、あの日、警察に驚いた不死川は逃げようとして、集まって来すぎて道を塞ぐ形になっていた野次馬に持っていたナイフを振りかざし、数名に軽傷を負わせたとして逮捕された。
それだけではなく、妹をひきかけた車の運転手にもかなりの暴力を振るっていたこともあり、色々が重なって実刑。
奇しくも最初に杏寿郎が望んでいた通り、刑法で処罰される結果となった。
肉を焼くのに集中しているようでいて、実は話を聞くだけは聞いていたらしい。
義勇は綺麗に焼けた肉を嬉しそうに錆兎の皿に移した後、
「せっかく錆兎がおまわりさんに捕まらないようにしてあげたのにな」
と、少し残念そうに言った。
それに対しては杏寿郎が
「あれは君や宇髄に恨みの矛先がいかないようにという措置だったから、悪が成敗される分には構わないんだ!」
とどこか誇らしげに言う。
それに錆兎がため息をついた。
「別に義勇がそこまで望んでいたわけではないからな。
本当に会社を辞めてこの近辺から消えてくれれば、ここまでにならなくても良かったんだが…。
まあ杏寿郎、お前も気をつけろよ?」
「…俺はむやみやたらに人を殴ったり暴言を吐いたりした覚えはないぞ?」
杏寿郎は錆兎の言葉に不満げな表情を見せるが、錆兎は
「そっちの意味じゃない」
と苦笑して見せた。
「お前も千のことをすごく可愛がっているからな。
今回不死川が逮捕されたのは妹が危害を加えられたという誤解が元で暴走した結果だ。
そのあたりはお前だってありうるだろう?
同様に千が関わるとしばしば暴走しかけるから。
だから何かあったら絶対に行動に出る前に俺に言え」
「ああ、そういうことか。
そのあたりはわかっている。
俺が不死川のように捕まってしまったら千寿郎を犯罪者の家族にしてしまうからな。
それは絶対に避けたい」
そう言う杏寿郎に、宇髄は内心、──自分じゃなく大切に想う人間のためか…似た者同士かよ──と思ってなんだか笑ってしまう。
ああ、でも悪くはない。
人は一人で生きているわけではないし、宇髄もなんでもかんでも自分自身のためにやるセルフサービスよりも、誰かのために動く方が楽しいという人間だ。
おそらくここにいる面々は義勇や村田も含めて、自覚のあるなしは別にしてそういう人間の集まりなのだろう。
(まあでも相手のためって思ってても単なるてめえの思い込みから来る自己満足ってことも多々あるわけだが…
…理解と思い込みってのは似てやがるからな…)
社員旅行の諸々…いや、その前からか。
宇髄自身の行動も、経過は揉めても最終的に友人二人共のためになるという思い込みだったのだろう。
何かしたわけじゃない、ただ自分の過去を知っているから自分を糾弾する可能性があるというだけで宇髄を何の躊躇もなく切り捨てた不死川なら、両想いになって一時的に暴力が止むことがあったとしても、義勇が何か不死川にとって気に入らない事をした可能性があるだけでまた平気で殴るんだろうと、宇髄は思う。
自分が思ったことが本当に事実なのか単なる思い込みなのかを一度止まって考えるという習慣がない不死川とは、義勇のように抵抗の出来ないタイプの人間は幸せにはなれないだろうと今ならわかる。
結局、幼少時から培われた人間の性格なんて早々変われるものではないのだ。
これまで殴って全てを解決してきた人間は、大人になったって自分に不利益がない限りは殴り続ける。
習慣的に他害を行う人間を更生させるなんていうのは机上の空論、くそくらえだ。
やれるもんならそれを叫ぶ奴が責任をもってその暴力のはけ口になればいい。
一般人のいる場所に放逐すんな。
まあ…そんな簡単なことを自分が切り捨てられるという痛い目に遭わないとわからなかった自分も自分だが…と宇髄は自嘲した。
だが、だからこそそんな自分を受け入れてくれた新しい人間関係を大切にしていこうと宇髄は心の中で固く決意する。
「…宇髄?どうしたんだ?飲んでるか?」
と、そんなことを考えて手が止まっている宇髄のグラスに杏寿郎が酒を注いでくれる。
ああ、そうだ。
こいつも言ってたなぁ…とそこで思い出して
「お前の言ってたこと…正しかったわ。
『いじめの加害者は死ぬまで日の当たる所に出るな』
ってのはマジそれなっ。
学校内では”イジメ”なんて生易しい言葉で呼ばれて甘やかされてっけど、街中でやったら逮捕されるからな。
小学校入ってまでそれやってる奴は、ジジイになっても性根変わらねえ。
なら、さっさと豚箱に隔離したほうが世間のためだわ」
と言うと、杏寿郎はいったんピタっと動きを止めて目を見開いて、次の瞬間
「そうだろうっ!!
宇髄、君はやっぱり物の道理というものをわかる男だったかっ!」
と破顔した。
それから、まあ飲めっ!もっと飲め!と酌をする杏寿郎と、それに酌をし返す宇髄。
2人して肩を組んで大盛り上がりで飲む様子に、旧友と新しい友人達が仲良くしているのが嬉しいのかにこにことそれを眺める義勇。
そんななか、そんな面々とは少し違うテンションで
「…やれやれ…。俺はこれから杏寿郎だけじゃなく宇髄の暴走まで止めることになるのか…」
と二人が交友を深めるのを微笑まし気に見ながらも、小さくため息をつく錆兎。
もうこうなったら仕方ない。
いくら色々の達人だからと言っても、あの二人相手では厳しかろうと、
「うん…まあ、そうなったら俺も協力してやるからさ。
…ただし繁忙期以外ね。
だから問題起こすなら決算期以外にしてってあの二人には普段から言い含めておいて」
と諦めて巻き込まれ宣言をする村田に、錆兎は今度こそ憂いなく思い切り心の底からの笑顔を見せた。
元は杏寿郎が暴走しないようにと関わった今回の諸々だったが、思いがけず得るものが多かった。
そして…最終的には杏寿郎の望む勧善懲悪で終わって、物語はめでたしめでたしで締められたのである。
── 完 ──
素敵な作品をありがとうございました😊
返信削除勧善懲悪で完結して頂きスッキリしました😄
自分のとった行動の責任はきちんと償わないといけませんものね。
ほんま義勇さん錆兎と出逢えて良かったです。
スノさんの錆義は最高です(^^)
長い話を最後まで読んで下さってありがとうございました😊
削除まあいったん見逃されても、やらかす人間はまたやらかすといった感じですね😀
もしかしたら精神科に掛かっていたから心神耗弱状態で不起訴処分かと思ったら暴行に傷害を同日にか~。イジメは暴行罪と呼び変えた方が妥当ですね(;^_^A
返信削除心神耗弱に出来るレベルってそんなに簡単じゃないようですしね。
削除それまでの素行や車の運転手に対する暴行もあるので起訴は免れなかったということで😀
連載お疲れ様でした!不死川が最後まで迷惑でしたけど、皆には関係ないところで勝手に転落してくれたので義勇さんが傷つくことも気に病むこともなく、宇髄さんの洗脳も解けて、煉獄さんも勧善懲悪推奨仲間ができてと、HappyEndですね!日々の更新が活力の源だったので、終わってしまったのがとても寂しいですが、良い感じに丸く収まって良かったです。取り敢えず、また最初から読み直してこようかなと思います。素敵なお話を生み出して下さりありがとうございました。
返信削除とりあえず加害者の排除より被害者の保護が最優先で!というのが持論なので、それが出来た上で収まる所に収まったという形です😊
削除今は少し軽く【ずっと一緒】のエピソードを書きつつ、また何かがっつり長いものを書こうと物色しているので、またお付き合いして頂けたら幸いです✨
勧善懲悪でスッキリ。不死川さんは、今回はかわいそうな役回りでしたが、錆兎と義勇ちゃんが幸せになれたので、ハッピーエンドですね。素敵なお話ありがとうございます♪
返信削除まあ錆義なので、他はケースバイケースな役回りということで😅💦
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