それから錆兎が話したことは、横領した同僚の逮捕の裏にそんなことがあったのかという多少の驚きがあったものの、おおかたは予想していた範囲のことだった。
遺族以外にも加害者に恨みを持っていて復讐を考える人間がいるって言う実例を聞いて、自分の場合は…って考えたら、確実にあいつがしてきたことを知っている俺が怪しいって思ったってことか…」
怒りというより呆れすぎて力が抜けた。
「すまん。
俺がその最後の締めを実行しなければ、あいつは今でもお前の良い友人、同僚として、今でもお前と楽しく交流を続けていただろう」
と頭を下げる錆兎。
「あ?なんでそこでお前が謝んだよ。
別に俺が復讐者って言ったわけじゃねえだろ?
単にあいつがガキの頃から一緒に居て諸々を知っているってだけで俺を信頼できねえって切り捨てただけだ。
お前が角田の件を伝えさせなくてもいずれそういう事例が耳に入った時に、奴は同じ行動を取るだろうしな。
あいつが自分が加害者だって自覚した時点で、早かれ遅かれこうなる確率は高かったと思うぜ?
俺はあいつにとって絶対に信頼が出来るダチだって思える関係を作れなかったし、あいつはこいつになら裏切られても仕方ねえって思えるほど俺に気持ちを持っていなかった。
ただそれだけだ」
「……すまない」
「だ~か~ら~、なんでお前が謝んだよ?」
「俺は俺の都合でお前に不利益になる事をしているからな」
「…お前のじゃなくて冨岡の都合だろ」
「いや、飽くまで俺が義勇にしてやりたかったことをしただけだから俺の都合だ」
「………」
「………」
「…あのなぁ…いいことを教えてやる」
「…いいこと?」
「ああ。実弥はな、冨岡を憎くて殴ってたわけじゃねえ。
でもたとえ好意の裏返しだとしても冨岡からしたら殴られれば痛えんだよ」
「…?…ああ、そうだな?」
そう言う宇髄の言葉に、なんでも察していつでも余裕な顔をしている気がする錆兎が珍しくきょとんと不思議そうな顔をする。
本当に何を言われているのかわからないといった表情だ。
「逆も然りだ」
「…逆?」
「お前がどういうつもりで実弥を遠ざけたにしろ、殴られたくねえ、構われたくねえ冨岡からすればありがたい措置だろ。
俺にしても、実弥にそこまで信用されてなかった、ダチと思われてなかったってわかるのは早い方がいい。
お前の側が罪悪感感じようが、後ろめたかろうが、結果な、俺が良かったと思ったんならそれでいいんだよっ」
「…そうか…」
と、心底ほっとした顔をされて、宇髄はなんだか不思議な気分になった。
いつだって迷いなく行動しているこの男の中に、そんなすごい葛藤があったのか?
実弥の暴力から解放された義勇はもちろん安堵しているだろうが、宇髄だって誠意を尽くして付き合ってきたのにはなから自分を疑ってかかるような人間と今後も仲良くしたかったとはさすがに思えない。
今一時的に多少落ち込んではいるが、それでも実弥と距離が出来てからは錆兎がずいぶんと色々に誘ってきたし、そのつながりで杏寿郎や村田、それに後輩の炭治郎とも仲良くなった。
実弥との縁が切れても一人で放り出されたわけじゃない。
むしろ実弥と義勇の板挟みできりきりしていた頃よりは、平和で楽しいだけの交友関係になったし、むしろ良かったのだろう。
だがただ一つ、疑問が残った。
そもそも何故こんなまどろっこしい方法を取ったんだろうか…
全てを話す…といったのだから、聞けば錆兎は話してくれるのだろうと、宇髄はその点について聞いてみることにした。
これまで宇髄さんがただただ不憫だったので、実弥から解放されて心身ともに身軽になれたようで本当に良かったです。
返信削除幼い頃からの長い付き合いだったためなかなか割り切れずにいましたが、あちらからアクションを起こされてようやく思い切りがついたようです😀
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