──お前さ、この店のチョイスなに?
宇髄的には非常に沈んだ気分だったので店のチョイスは錆兎に任せたのだが、連れて行かれたのはどう見ても大の男二人で入るには少々不似合いな、可愛らしい雰囲気のレストランだった。
何故自分と来るのにこのチョイスなのか…まさかこのあと別の約束が入っていてそのまま使う予定なのか…もう色々な可能性を考えながら尋ねると、錆兎からは
──…今の俺には甘い物が必要だから。
と、なんとも不思議な答えが返ってきた。
どう反応して良いか正直わからない。
性格だけではなく体格も雰囲気もいわゆるイケメンではあるがややいかつい系のこの男がスイーツを好んで食べるようには見えないが…?
と、一瞬思って、しかしすぐ、ああ、そう言えばあの社員旅行でも常に甘い物を携帯していたから、もしかして実は甘党なのか…と思い直した。
そんな事を考えていると
「お前はお前の好きな物を頼んでくれ」
と渡されるメニュー。
一応見た目も華やかな系の洋食ではあるが、スイーツだけではなく、普通の料理も当然ある。
なので宇髄はメニューをパラパラめくりながらチェックし、宇髄が大方決め終わったであろうくらいのタイミングで錆兎がベルを鳴らして店員を呼んで注文した。
「本題は注文したものが来てから30分待ってくれ」
注文を受けたウェイターが部屋から出ると、錆兎はまず開口一番そう口にする。
その言葉から察するに、彼には今日宇髄が話したい内容はわかっているのだろう。
それはそれとして…疑問。
「なんで30分?」
「先に食ってから」
そこまで腹が減っているのかとも思ったが、その割に、錆兎が注文していたものはスイーツばかりだった気がする。
それを指摘すると、彼は相変わらず淡々と
「…話をするには俺には少しばかり糖分が必要だから」
と、まるでそれが当たり前のことのように言うので、そこで何故?という気も失せてしまった。
こうして待つ事10分ほどで、最初のスイーツと宇髄が頼んだオードブルが到着。
それを黙々と食う。
「…それ、美味い?」
正直、いつでも美味そうに食っている杏寿郎と違って、淡々と食う錆兎はわかりにくい。
それでもすさまじい量のスイーツをひたすら胃に収めているので思わず聞くと、
「美味いぞ?味見するか?」
と、少し皿をこちらへと寄せてくれたので、味見をした。
ああ、確かにこれは美味いな。
と、さすが美味い物巡りが趣味な脳筋コンビがプライベートでくる店だと感心しながら、
「なるほど。
店の雰囲気も料理の見た目も味も良し。
今度彼女達連れて来てやるか」
と、宇髄が口にすると、
「休日前は要予約な?
平日でも確実に待たずに食いたければ要予約」
と忠告してくれる。
いつもと全く変わらぬ様子で…しかしこの大量のスイーツ摂取は錆兎的に何かいつもと違うのかもしれない。
そうして最初の皿が来てからきっかり30分。
──さて、時間だな。本題だ。
と、錆兎はカトラリを置いてそう言うと、しっかりと宇髄に向き直った。
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