社員旅行から3か月が経ち、厳しかった残暑がようやくなくなったかと思えば、一気に冬の寒さが襲ってきた11月のとある日のことである。
錆兎先輩です?」
と、錆兎を訪ねた企画営業部で、彼が可愛がっている後輩の炭治郎がかけ寄ってきた。
相変わらず元気で邪気のない笑顔が幸せそうでいいよな…と、言われた通り少しばかり元気というものがなくなっているのを気づかれたのを不覚に思いながらも、
「あ~。ちょっと約束があって来たんだが、居るか?」
と、そちらは素直に認めて尋ねる。
「今、会議が長引いていて…でもすぐに戻ると思うので、良ければ隣の俺の席にでも座って待っててください。
俺は今日は弟の誕生日なので急いでケーキ屋に寄るのでもう帰りますし」
と、最近錆兎と昼を一緒にするようになってそのグループの中にいるので知るようになった炭治郎は、話によると大兄弟の長子らしい。
いそいそと兄弟のことを口にしながら若干忙しそうに…しかしとても嬉しそうにフロアを出るその後姿を見送りながら、宇髄は同様に下に多くの弟妹がいる旧友を思ってため息をついた。
そう、幸せそうな炭治郎とは逆に、この数か月ずっと沈み込んでいた旧友は先日とうとう会社を辞めたらしい。
以前は…正確に言うと社員旅行以前はというのが正しいか…なんでも話してくる仲だったのに、最後は会社を辞めるなんてことですら一言の相談もなかった。
社員旅行が終わって以来、なんとなく避けられていて、その時は彼が失恋した諸々を宇髄が知っているので気恥しいのかもとしばらく放置していたら、リモートを選択して会社にほぼ出社しなくなって、気づいたらこれだ。
宇髄が退職を知ったのだって本人から伝えられたわけではなく、たまたま旧友の部署に用事があって足を運んだ時に、デスクに別の人間が座っていたことで同じ部署の人間に尋ねたからだ。
ここで宇髄はようやく彼が気恥ずかしくて避けていたわけではなく、もっと積極的な理由…宇髄に近寄りたくないという何かがあって自分を避けていたのだろうと気づいた。
社員旅行の翌日からなので、その時の諸々しか原因は考えられないわけだが、列車のチケットをすでにとってあるから列車で帰ると言う旧友と車で来ているからと分かれた時には変わった様子はなかったと思う。
翌日には様子がおかしかったのだから、何かあったとしたらその後…列車の車内でか…。
一瞬、関係者には他言しないように口止めをすると言っていた錆兎の不手際があって話が同僚に漏れて気まずくなったかとも思ったが、宇髄がその後普通に社内で色々な人間と接しているなかでは、特にその手の噂も聞かないので、それではないだろう。
そうなるともう本当にわからない。
相談しようにも今回の関係者以外には口外できないので、旧友本人に避けられている以上、聞ける相手は4人しかいない。
そのうちの一人の義勇は当事者過ぎて、せっかく諸々が片付いて穏やかに過ごしているところを突けばまた面倒なことになりかねない。
もう一人の経理の村田は宇髄がそこまで話したこともないこともあり人柄がわからないのと、今回の件では錆兎に頼まれてその時々で協力したようだが、全容を把握しているかどうかはまた謎だ。
おそらく全容を確実に把握しているであろう一人の杏寿郎はわかりやすく旧友の不死川に対して腹をたてている。
錆兎の仲介があってなんとか不死川に対する糾弾に関しては抑えてもらっているが、こちらも下手に刺激をすると藪をつついて蛇を出しかねない。
となるともう話をきける選択肢は一人しかいない。
不死川に避けられている話もしばしばしていたし、それとは別にかなりの情報通でもあるので、今回の退職に関しても何か知っているかもしれない。
そう思って宇髄は最後の一人、錆兎にアポイントを取ったのだった。
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久々に?多分、打ち間違いのうえの誤変換ではないかと^^;「かけ追ってきた」→「かけ寄ってきた」あたりでしょうか?お暇な時にでもご確認ください(*- -)(*_ _)ペコリ
返信削除ご報告ありがとうございます。修正しました😁
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