捕獲作戦_完了_エピローグ

「とりあえず…あの時とは状況が違うし、俺達がまず優先すべきは義勇の平穏な日常だ。
俺は付き合うと決めたからには何を置いても義勇を優先して守るし、必要なら”非常識な力”を使うことも厭わないが、今はその時ではない。
むしろそんなものを振りかざせる人間がバックについていると広まったら、他の人間と義勇との関係に亀裂が入りかねない。
わかるだろう?」
との錆兎の言葉に渋々頷く杏寿郎。

そこにさらに
「ということで、この話はおしまいだ。
心配しなくとも俺がついていれば、まずもうないとは思うが万が一不死川の気が変わってちょっかいをかけてきても追い返すことはできるから心配ない」
と言われて、杏寿郎も今回の件については不問に付すと了承した。

そして義勇の中に残る疑問。

「えっと…すごく気になるんだけど…」
との問いかけに、
「ん?不死川のことか?不安なことがあるならなんでも言ってくれ」
と錆兎が労わるような笑みを浮かべて義勇の顔を覗き込んで来る。

「いや…そっちじゃなくて…」
「…?」
「さっきから出てくる”非常識な力”って、結局なんなんだ?
なんで錆兎がそんなすごい力を持っているんだ?」

そう、そこだ。
何故普通の高校生が無実ではなく実際にやらかしているにしろ、いきなり中学生を少年院送致に出来る権力を持っているのか、そこは気になる。

それに
「…あ~、それか…」
と笑顔のまま固まる錆兎。

しかし杏寿郎の方が
「付き合っていくならいずれわかるのだから隠しても仕方ないだろう」
と錆兎に言いつつ教えてくれた。

「まず錆兎の祖父が居合道の権威でな。
若かりし頃は日本はもちろん海外でも招かれて剣術指導に当たっていた著名な殺陣師なんだ。
ハリウッドなどでも指導を行っていて、その関係で子役の指導に錆兎も参加していたから、向こうに強力なコネがある。
芸能人のみならず、それを見学に来ていた政財界の大物とかに気に入られて家に招かれ、今ではチェス友という相手もいるしな。
そういう海外の政財界の要人からの圧力と……あとは錆兎の母方の実家の権力だな。
母方は平安から続く有名な剣術家で今現在長子である伯父が継いでいるがこの家に子がなくてな、伯父夫婦は才がある錆兎を跡取りとして養子にしたいとずっと交渉中なんだが、この家の末子である錆兎の叔父にあたる人物が現警視総監だ」

うわあぁぁ~~~と驚く義勇と、どうやらすでにそれを知っていたらしく苦笑する村田。
そして複雑そうな表情の錆兎。

その錆兎の顔を見て義勇は錆兎の話を思い出した。
そして言う。

「それは…頑張って逃げ切って山での自給自足の生活を死守しないとだね」
と、義勇のその返しに錆兎は一瞬ポカンと呆けて、それから満面の笑みを浮かべた。

「そうなんだ。一緒に死守してくれるか?」
「もちろん!俺も自分で大根作りたい!」

ぎゅっと抱きしめる錆兎とそれをそっと抱きしめ返す義勇。

そんな二人をやはり一瞬驚いた顔で見ていた杏寿郎と村田だが、やがて杏寿郎は笑みになり、村田は驚いた顔のまま
「お前らの諸々は本当に非常識なレベルだと思うんだけどさ、その非常識な力を目の当たりにしても揺れずにブレずに一緒に自給自足生活したいって言える冨岡が一番非常識なレベルの変わり者だって思うわ、俺。
たぶん日本でただ一人くらいの人間じゃない?
錆兎もよくそんな稀有な相手を見つけだしたね」
と、呆れたように肩をすくめる。

「うむ。錆兎に近づきたがる人間の中では非常に珍しいタイプだな。
まあ…錆兎が幸せなら良かった。
俺とてやはり世間の良識は大切だが、親友の幸せのためなら仕方ない。
奴のおかげで冨岡と知り合えたわけだし、今回だけは色々と不問にすることにする。
……もちろん二度目はないことが前提だがなっ」

笑顔の最後に真顔になってそう言う杏寿郎に、

「安心しろっ。
もし今後義勇に危害を加えるようなら、お前の手を煩わせるまでもなく、俺が最大限の”非常識パワー”を駆使しまくって成敗するからっ!」

と、錆兎は実に明るく人の好さそうな満面の笑みでそんな恐ろしい発言をして、村田に大きなため息をつかせるのだった。

しかしその後、さらに意味深な笑み。

「まあ…実はもう一つだけ最後に締めが残っていて…。
たぶん不死川はすっきり成敗された方がマシだったと思うんだけどな…」

俺は杏寿郎ほど優しくも性格が良くもないから…と言った言葉の意味は、義勇はもちろんのこと、幼馴染の杏寿郎にすらわからないままだった。









2 件のコメント :

  1. よ・良かったです〜😂
    にしてもこの義勇さんはピュアで可愛いらしい人ですね。

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    1. 義勇さん、お育ちがよろしいので😁

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