捕獲作戦_完了_非常識

「おかえり!錆兎っ!」
と、3人それぞれが戻ってきた錆兎を迎える。

義勇は嬉しそうに…杏寿郎はどこか難しい顔で…そして村田は心底ほっとした表情で。


「ただいま、義勇。
不安になるような事をさせて申し訳なかったな。
だがもう大丈夫だ。
不死川もきっちり色々理解して反省して、今後迷惑をかけてくるような事はしないと約束したから」
と、錆兎はまず義勇に向き合う。

それに
「さすが錆兎だっ!」
と、嬉しそうに抱き着く義勇。

「あちらからは手も口も出してこない。
その代わり、今回の社員旅行の諸々は忘れるということで、口外しないでやってくれ」
「もちろんだっ!」
と見上げて笑う義勇を錆兎はぎゅっと抱きしめ返す。

そんなすべてがめでたしめでたし風味の二人とは違って、不満げな杏寿郎。

「甘くはないか?
今回も元々は言い含めたはずが暴走しているのだし、二度あることは三度あるというではないか」
と、厳しい顔だ。

それに苦笑する錆兎と村田。

そして口を開いたのは錆兎の方だ。

「俺達の目的は不死川が義勇に危害を加えるのをやめること、その一点だったはずだぞ?
さきほどまでの話し合いの過程でだな、不死川は自分がまずいことをして処罰を受けることになれば、その影響が自分だけに留まらず自分が大切にしている幼い兄弟達にも及ぶ可能性が多々あるということを理解した時点で、みずから今後は一切やばい行動は控えるという結論に至った。
だからこちらから突かない限りは奴からやらかしに来ることはない。
なんならこれまでの事があるから、避けるくらいの勢いだと思う。
…というわけでな、義勇の平和な生活が確保された時点で、これ以上俺達がやることはない」

なるほど、そういうことだったのか…と、あれだけ長期間にわたって暴言暴力を続けてきた不死川が何故そうなったのかと疑問に思っていた義勇は納得したのだが、杏寿郎の方はその説明を受けてなお、まだ納得できないようだった。

「…絶対ではないだろう」
と不満な気持ちを隠すことなくいう杏寿郎に、錆兎は

「そうだな。世の中に絶対なんてことはありえない。
それこそここで不死川を刑務所にぶち込むくらいのことをしたところで、死刑になるくらいのことじゃなきゃ『一生100%の確率で危害を加えない』というのはありえないぞ?」
と苦笑する。

「むぅ…それでも無罪放免よりはマシだろう?」
とそれに杏寿郎は食い下がるも、

「追い詰めすぎると義勇が恨みを買う可能性も高い。
そもそもが”俺達が法ではない”。
正規のものを超えた処罰を望むことは良い事とは言えないと思うぞ」
と返されて黙り込んだ。

しかしそれでもさらに納得がいかなかったらしい。

「俺達が法ではないが、法で裁かせることはしただろう?」
と、どうやら高校生時代の事を言っているのであろう。
さらに食い下がる杏寿郎に、錆兎は額に片手を当てて、はあぁ~と大きくため息をついた。

「…あれは常識から逸脱したやり方だ」
「…でも違法じゃない」
「いや…違法ではないが平等ではないぞ。
お前…村田に言われたありがたいお言葉を忘れたか?」
と、ここでいきなり出てくる村田の名に、義勇は少し驚いて村田に視線を向ける。

「俺はお前を犯罪者にしたくはなかった。
だが止める手段が他に思いつかなかったのでああいう方法を取った。
しかしな、何度も言うようにあれは特別措置だ。
他が使えない手段を使って上から潰すのを繰り返すなら、俺達は法治国家の住人ではなく、ただの独裁者になりさがるぞ?」

重くなる空気。
だが義勇はあまりに気になって、それをガン無視で聞いてみた。

「えっと…村田のありがたいお言葉って?」
と、小さく手を挙げて言う義勇に、錆兎は、ああ、と苦笑まじりに答えてくれる。

「昔な、杏寿郎の弟が学校で暴力を振るわれていた時に、コネクションを使って加害者を法的に追い詰めて少年院送致にしたことがあるんだが、普通、学内の暴力でしかも学校側が加害者をかばおうとしている状況でそういうところまで追い詰めるのは難しいんだ。
で、それをやってのけた時に村田にな、
『なんて非常識な力』って言われたんだよな。
そう、あれは確かに非常識な力だった。
それに対して杏寿郎が『あれは非常に常識的で正しい措置だ』と言ったんだが、それに対しての村田の言葉が『お前の常識は世間の非常識だよ』とな。
まあ呆れ顔で言われたんだ。
まあそうだ。
常識と言うのは一般的に正しいと思われているものということだから、コネクションも何もない一般家庭の人間がそこまで追い詰められないということは、一般的にはその加害者はそこまで追い詰めるべきではない存在だと思われているということだろう。
その認識を改める努力をせず、力で踏みつぶしてしまった俺達は、非常識と言われても仕方ないなと思っている」

少し困ったような顔でそう言う錆兎。

それに杏寿郎は
「…非常識なのは俺だけだ。君は俺に頼まれただけだ」
と心底申し訳なさそうに言うが、錆兎はそれにはにっこりと満面の笑みで
「いや、それを実行したのは俺自身だから、俺も同じだな。
反省はしている。だが、後悔はしていないぞっ。
あの時はそれをしないとお前の方が犯罪者になっていたしなっ!
親友を見捨ててまで世間に合わせても意味がない」
と断言した。















15 件のコメント :

  1. 一般的にはその加害者はそこまで追い詰めるべきではない存在だと思われている>
    コレは違うんじゃないでしょうか。力がないから実行出来ないだけであって、もしも願いが叶うなら、加害者はとことん追い詰めて二度と浮上して来れないようにしてやりたいと思っている人がかなり多いと思うんですけど?

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    1. 実は…仕事の関係で以前かなり色々ないじめのお話を聞いたりもしたんですが、実際問題、ネットとか完全な第三者で実際に関わりを持たない場所にいる方々は総じてイジメ許すまじという風潮ですが、イジメ被害者の保護者の方々のお話だと、近い場所の人、例えばクラス内とかだと、イジメがあっても無関係な保護者はあまり騒ぐなというスタンスなことが多かったそうです。あまり騒ぎすぎるとかえってよく見られなかったりとか…
      もちろんみんながみんなではないでしょうが、基本他人事で関わらないor被害者の側に否定的な反応が多いようです。
      本当に近々の状況はわかりませんが、教育関係者を集めたいじめのシンポジウムのような席でも、イジメは環境がつくるもので、一人の加害者を排除してもまた別のいじめが起こるだけだから、環境を整えていくことが最重要…みたいな、加害者を排除するというよりも加害者を含めた全員が良い環境で居られるように…みたいな風潮でしたし(ノ∀`)
      まあ…当事者の家族とかは確かに杏寿郎のような反応が多数派ですが…

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    2. ちなみに…加害者を処罰しないで良いし別に不幸になってくれとも思わない~(略…という義勇さんのスタンスは実際にイジメで大変な思いをした元イジメ被害者の方のお言葉です。
      ただその方の場合は親御さんが近隣の教育関係に多大な影響力を持っている方で、中1で半年学校が動かなかったことにキレて校長に圧をかけて、結局2,3年は問題になりそうな生徒の居ない組を学校でも一番評判の良いベテランの先生に受け持たせてそのクラスに配属するという措置を取って健やかにお過ごしになったあと、有名大学を出られて難関国家資格を取られて日々仕事にやりがいを覚えながら充実した生活を送っていると言う、イジメ被害者にしてはとても幸せなレアケースな方です。
      この話の義勇さんも最終的に一流企業の社員をやっているので、まあ被害者でもその後に悪影響を引きずっていない極々一部という感じですね。
      でもそこまで出来るくらいの親御さんでも、加害者を排除という方向での解決はできなかったそうです。
      昨今、イジメ問題は比較的クローズアップされるようになりましたが、それでも同時に加害者をも含めた未成年者の人権というものもかなり重視されているので…

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  2. 加害者は徹底的に追い落としたい人が多いから「ざまぁ系」なんて物が流行するんだと思いますけど

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    1. 「ざまぁ系」の小説とかは確かに爽快なんですけどね😅
      ただよくあるネットリンチのように、加害者を徹底的に追い落としたい=絶対的な正義かというとまた違って、非常に嫌な言い方をするなら、自分は安全なところから叩いても良い人間と定めた人間を標的に叩くことを楽しんでいるという場合も少なくはないので。
      加害者の糾弾というのは安全な場所に居る第三者の娯楽ではなく、大前提として被害者の保護と救済の手段であるべきと思っています。

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  3. 村田さんこそ何様だと思ってしまったんですが。被害者家族が加害者を糾弾するときに持てる力の全てを使うことの何が悪いんですか。「そこまでやらなくても」なんて関係ない他人に言われたらセカンドレイプでしかないと思うんですけど

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    1. 村田さんの二人に対する非常識宣言は、別に本人は避難と言う意識はなくて、例えば、二人なら当たり前に出来るからそれが当たり前と思うことも多くて、でも一般的にはそれができる能力がある人間は少数派なんだよと言う時に「お前らの力は非常識なレベルだからっ!普通はそれ持ち上げられないからっ」みたいな感じで使っているだけで、今回に関しては当たり前にとんでもない権力を行使しているので「なんてとんでもない(すごい)力」=非常識という言葉になった感じです。
      お前の常識は~も、杏寿郎の「非常に常識的~」の常識=普通によくあることに対しての滅多にないよ?普通はできないよ?という能力の有無を語っているだけですね。
      文章力がなくて申し訳ありません😅💦

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    2. 非常識という単語自体、相手を批難する意味が多分に含まれていると思います。お前には常識がないと言ってるも同然です。規格外とかレベルが違うとか並外れたとか尋常じゃないとか、他にいくらでも負の意味が含まれない言葉があるのに「非常識」という単語を選んだ時点で批難するつもりじゃなかったは苦しいんじゃないでしょうか。

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    3. もうその方個人の感性とかどう感じると言うことを強要しても仕方がないとは思いますが、気の置けない友人同士の…特に学生同士の言葉では時に一見揶揄や非難にも取れるような言葉を悪意からではなく親しみを込めて冗談まじりに使うこともあるとは思います。
      今回のこの言葉については、「一般的ではない、普通は(能力的に)できない」くらいの感じのことをやや揶揄を込めて言っているという感じで使っていますが、別の言い方をするならば「一般的に認識されている範囲を超えた」という所ですか…。
      ですが普通の学生同士の会話で常にそういう絶対に悪い意味に取られない言葉を配慮しながら会話をしているというのも、私はやや不自然に感じます。
      それに対しての錆兎の「ありがたいお言葉を忘れたか」という言葉も「絶対的な遵守すべき規約」のようなものではなく「普通ではないって言われたのを忘れたのか?くらいの感じで言っていて、このありがたいというのはやや揶揄を含んだ感じで使わせています。
      そのあたりは筆者の脳内での登場人物の言葉選びのイメージなのですが、もうどうしようもなく読んでいて不快感を感じるようでしたら、読むのを中止してそっとページを閉じて頂ければと思います。

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  4. 確かに、普通の人だったら、復讐相手を完膚なきまでに叩き潰す権力は持ってはいないです。でも、だからと言って、行使できる力を持つ側が、手心を加えなければならない理由にはならないのではありませんか?反撃されて手痛い目に遭うのは、反撃されるようなことをした加害者が悪いんです。触らぬ神に祟りなしではありませんが、そもそも危害を加えることをしなければ、報復として権力を行使されることもなかったわけですし。

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    1. 自分がされて嫌な事はするな、自分がやったことならやり返されても仕方ないだろうと言うのは確かにその通りなんですが(私は個人的には目には目と歯と飛び蹴りを、をモットーに生きている人間ですw)実際にはやり方を考えないと、被害者が周りに引かれてしまうので💦
      普通の人間に太刀打ちできない権力でねじ伏せたとなると、今度は逆に被害者が周りに怯えられたり避けられたりする可能性も出てくるので、そのあたりはとてもデリケートな問題で慎重にやり方を考えないといけないんですよね💦

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  5. いじめの被害者が必死に抵抗した結果過剰防衛になったからといって、手を貸してもくれなかった第三者が身勝手に被害者を非難するならば、その第三者も加害者だと思います。そもそも、いじめなんてしなければ良かったんですから。普通に、まともに生きていれば、過剰なまでの反撃力を持っていようが何だろうが、それの矛先になるなんてあり得ないわけで、将来的に自分にそれが向けられるかもと怯えると言うことは、悪いことをする予定があると喧伝しているのと同義だと思います。

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    1. まず過剰防衛に関しては理不尽に感じようと法的には被害者もペナルティを負ってしまうので、あまり推奨できませんし、第三者が被害者を非難してもそれは言葉が過ぎれば民事にはなりますが、刑事罰にはならないので。
      あとは過剰なまでの反撃力に怯えるうんぬんは、被害者が過剰なレベルの権力を持っている場合、絶対的に正しい方向にしか使わないという保証はないので、第三者からすると例えば普通の友人レベルの喧嘩とかでも再起不能にされるかもと思えば、被害者に対してははれ物に触るように接するようになっても仕方ないのかなと。
      少しネタバレになりますが、今回に関しては錆兎はそのあたりの義勇のこの後の人間関係や義勇自身にマイナス感情を向けられたりする可能性を考えて、いったん実弥と義勇の問題と言うのを終わらせた上で、義勇とは無関係のものとして相手を追い詰めて行こうとしています💦

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    2. 白を無理矢理黒にしたわけじゃなし、黒を白にしようとする理不尽に抗っただけでそこまで怯えられる筋合いはないと思うんですけど、難しいですね。

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    3. 少したとえはズレるかもしれませんが、例えば運転中にパトカーが傍に居ると違反をしたわけでもないのに、何か絶対にミスをしないようにしないようにしないととか、緊張するのと似たような感じかもしれませんね。

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