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捕獲作戦_完了_怒りの杏寿郎

──うるさく暴れるようなら村田を呼んでくれ

…と言うのは、社交辞令でも何かの比喩でもなかったようだ。

廊下に出るなり杏寿郎はドデカイ声で

──皆、加害者に甘すぎるっ！！

と叫ぶ。

それに対して義勇には思うところは全くないのだが、おそらく不死川を再起不能にはしたくないのであろう錆兎の様子はなんとなく感じられていた。

しかしこのまま宴会場に戻ったら、杏寿郎はこのドデカイ声で不死川非難をしかねない。

なので義勇は珍しく空気を読んで、

「少し俺達の部屋で話をしよう！」

と、杏寿郎を今は錆兎がいないので誰もいない自分達の部屋へと促した。

錆兎の忠告通り、村田を電話で呼び出して道連れにするのも忘れない。

村田は実は宇髄と脳筋コンビが抜けた後、他の同期と共にビンゴの司会を引継ぎ中なので即は来れない。

なのでいったんは二人で義勇と錆兎の部屋へ。

「あ、お菓子は和菓子はないけど、錆兎が食べて良いって言ってた洋菓子があるんだっ」

杏寿郎をなだめるにはまず菓子だろうと、義勇は錆兎と昼間に訪れたタマゴの菓子などの店で買った焼き菓子を出してお茶を煎れた。

錆兎の幼馴染で一緒によく錆兎の祖父の所にも遊びに来たという杏寿郎にもなじみの菓子だったらしく、それを見た杏寿郎は

「おお、たまごや工房のくるたまかっ！

なんだ、あの店に寄ったなら卵かけご飯用の醤油を買って来てもらえば良かったな。ちょうど切れてたんだっ！」

などと、機嫌よく手を伸ばす。

先ほどまでの不死川との諸々は錆兎にこういうことが起きるだろうということも本当に危険になるようなら即介入することも予め説明をされていて、その上で不死川の方が伝えたいと言うことは直接聞いた方が良いし、義勇の側も言いたいことがあったら直接言えば良いと言うことだったが、杏寿郎はそれに対して強く反対をしていた。

だからこの計画が宇髄と錆兎、杏寿郎と村田と義勇で共有された時から杏寿郎は機嫌が悪い。

もちろん不死川と違って、そのあたりは己の中の善悪に非常に忠実にして厳しい杏寿郎は、その不機嫌さを義勇に向けることなどは決してしなかったが…。

とにかく、いつも仲良しの人気者コンビだと思っていたが、今回の件ではそのあたりについて錆兎との意見の相違が大きかったようだ。

極力誰も取り返しのつかない、再起不能な状況にならないように…と主張する錆兎に他人の人権を無視している加害者の人権など配慮すべきではないと主張。

しかし

「人は失うものが完全になくなるレベルにまで追い詰めれば、やけになってとんでもない報復行動に出る可能性がある。

それが向けられる対象が俺やお前なら良いが、義勇に向いたらどうするんだ。

義勇自身がそこまで望んでいるならとにかくとして、そうではないなら、その決断をする俺やお前もまた、不死川とは別の意味で義勇に対して加害者になるぞ」

感情的に断罪を推す杏寿郎とは対照的に、そう言う錆兎は飽くまで冷静で、結局錆兎に説得されて杏寿郎が引く結果となった。

そうして村田を待つ間、義勇のいれたお茶を飲みつつ菓子をかじる杏寿郎。

──錆兎が言うことは正しい。しかしどうしても納得できないこともあるのだ。

焼き菓子を一つ丸ごと口に放り込んで飲み込むと、いつもなら、『美味いっ！美味いっ！』を連呼する彼が、しかし今日はお茶を飲んで一息。

その後、眉を寄せて彼にしては珍しく沈んだような…低く静かな声でそう言った。

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