冷静に冷静に…そう頭の中でお題目のように唱えながら、実弥は深呼吸を繰り返す。
しかしながら、それは義勇の目には奇異に映ったようで、余計に警戒の色が強くなった。
「別に殴らねえから、そんなに警戒すんな。
今回は…ちっと伝えたかっただけだァ」
しかしそこで、実はそんな実弥の忍耐を崩すことを狙っているのか?と問いたいくらいの義勇の言葉…
「何か言いたいなら早くしてほしい。
こうしている間も、せっかく錆兎がビンゴの司会をやっているカッコいい姿を見損ねている」
当たり前だがカ~っと頭に血が上る。
それでも実弥はなんとか耐えた。
そしてこれ以上義勇に何か言わせると自分の忍耐が持たないと悟って口を開いた。
「今は鱗滝のことなんざどうでもいいだろうがァ!」
と思わず声が荒くなったが、義勇は何故かいつものように委縮することもなく、
「錆兎の事でどうでもいいこととかは何もないっ!!」
と怒鳴り返して来る。
「お前っ!!!」
とそこに売り言葉に買い言葉になりそうになるが、そこでも実弥は彼にしては驚異的な理性を発揮してなんとか堪えた。
「あ~言い方悪かった。
とりあえず話をさせろや」
とあげかけた拳をなんとか自分の頭に持っていき、ガシガシと頭を掻く。
それにも義勇は
「だからさっきから話しがあるなら早く話してくれと言っている」
と、今までの怯えた様子がなんだったのかと思われるような不満をあらわにした顔で言うが、実弥は、もう気にしたら終わる、気にしたら負けだと脳内で念じながら、本題に入ることにした。
「あ~…つまり…今まで殴ったり怒鳴ったりして悪かったっ!」
と、錆兎に指摘されたのもあって、まず頭を下げる。
それに対して義勇はと言えば
「もうやらないならいい。話がそれだけならもう宴会場に戻る」
と、本当に興味なさげに言うと、クルリと反転しかけた。
「ちげ~よ!話を全部聞けェ!!」
と、不死川が慌ててその肩を掴んでそれを止めると、
「…まだ何かあるのか…じゃあ早くしてくれ」
と面倒臭そうに言われて、ため息が出た。
それでもとりあえず聞かせれば変わる。
そう信じて実弥は切り出した。
「…あの…よぉ…」
「………」
「宇髄から聞いたかもしんねえけど…俺がお前にきつく当たってたのは嫌いだったからじゃなくて、惚れてたからなんだよっ。
だから…付き合おうぜ」
「…は???」
やった!言ったっ!!
と気分が高揚する実弥だが、返ってきた義勇の答えがそれで、え??と思う。
お互いきょとんとして固まって、しかし先に口を開いたのは義勇の方だった。
「付き合うってどこへ?」
と、まるでお約束のようなボケに実弥は呆れ返りながらも
「ちげえよっ!付き合うっつ~のはだ、恋人になれってことだ!」
と返す。
これで解決!とばかりにホッと一息をつく間もなく、義勇の口から出たのは
「何故?」
で、それに
「惚れてるからに決まってんだろォ」
と言うと、義勇からは間髪入れずに
「俺は惚れてない」
ときっぱりと言われて唖然とした。
ポカンと固まる実弥。
義勇はそれを見て不思議そうに
「何故驚くんだ?
殴られ続けて怒鳴られ続けた相手に惚れる方がおかしくないか?
それとも不死川の周りにはそういう奴がいたのか?」
ときょとんと小首をかしげた。
いやいや、確かにそう言われればそうなのだが、宇髄にも脳筋コンビにもあれほど言われたにも関わらず、実弥は義勇がそんなことを思っているなど想像もしていなかった。
なので一瞬何と言っていいかわからずまた固まって、
「じゃ、そういうことで。
他に用がないなら宴会場に戻る」
とまた反転しかける義勇にハッとして、慌ててその腕を掴んで引き寄せる。
そして
──後悔はさせねえっ!!
と、何度も脳内で繰り返し考えたその言葉を口にするが、それに対しても
──何が?
──いや…俺とつきあったら…
──付き合う気はない。
──いや、付き合ってみれば案外お前だって俺のことを好きに…
──ならない。
と、にべもないやり取りのあと、きっぱりと
「俺は錆兎が好きだから」
ときっぱりと言われた。
「いや、でも、鱗滝だってつい一昨日までは知らない人間で付き合おうなんて思ってなかっただろっ!
2日間ずっと二人きりでいて良いなって思ったんだろうから、俺とだって一緒にいたらそう思うかもしれねえじゃねえかっ!」
はっきり言われてもそれで諦められるようならこんな手段はとってない。
実弥は義勇の両肩を掴んでグイっと引き寄せた。
「…不死川、痛いっ」
「うるせえっ!!黙って付き合えっ!!」
あれだけ言われても全く可能性がないとはなんとなく思っていなかったのもあって、完全に頭に血が上っていた。
試しに付き合ってみれば義勇のことは自分の方がずっと長く見てきてよく知っているのだから、自分の方が良くなるはずだ。
そんな自負が実弥にはあった。
どちらにしろここまで無理に拉致してきたのだから、この上さらに無理やりでも変わらないだろう。
最初は嫌いだったが付き合っているうちに…なんて話はドラマでも小説でもごまんとある。
そんな考えが沸騰した頭のなかをよぎった時である。
──やはり、加害者はしょせん加害者でしかないなっ!!
と、いきなりどでかい声と共に開くドア。
そしてとんでもない力で義勇と実弥を引きはがして実弥の襟首をつかんだのは、実弥の同室者、脳筋その一こと、煉獄杏寿郎であった。
キャー!煉獄さん格好良い!!やっちゃって下さい兄貴ィ!!
返信削除煉獄さんは良いところでスパ~ン!と登場するのがとても似合いますよね😁
削除実弥の思考回路が完全にストーカー勘違い男ですね。
返信削除元々思い込みが強いところに、色々と先を想像しすぎて絶賛暴走中です😅💦💦
削除ほんと煉獄さんは良い働きをしてくれますね。
削除サイテーなやつはどんどん思いっきりやっちゃて下さい。
それにしても、義勇さんの天然なところ最高です。
ハラハラしながらも面白かったです。
煉獄さん、時代劇の暴れん坊将軍みたいなイメージです😁
削除ぎゆうさんは…天然幼女なのでw