そうして待つ事十数分。
長いようでもあり短いようでもあるその時間を部屋で過ごして、実弥は部屋を出て再度宴会場の外まで足を運んだ。
それに少し安堵してこっそり室内を覗いてみれば、部屋の前方では宇髄と錆兎、そして杏寿郎がビンゴに当たって賞品を取りに来た同僚に笑顔で話しかけながら、大きな包みを渡していた。
その後方にはまだ多くの賞品が積まれていて、会場内は笑い声が響いている。
確かに室内のざわめきで声が通りにくいので、補佐を声がデカい脳筋コンビに依頼するのは理にかなっていた。
そちらを確認後、今度は実弥は義勇の様子を確認する。
宇髄に頼まれた同僚たちがいい仕事をしていてくれているらしい。
村田はなんだか同僚に誘いだされて酒を飲まされている。
そして義勇はその喧噪から少し離れたところに避難しつつ、所在なさげにデザートの果物を突いていた。
そうこうしているうちに、またビンゴの数字が読み上げられ、数人が、──ビンゴ~!の声をあげて場内が賑わう。
その瞬間だった。
いつもいつも逃げられるため、はからずとも気配の消し方が上手くなってしまった実弥は前方の脳筋コンビと宇髄に気を取られている義勇にソっと近づいてその腕を取って強引に立たせると、びっくりして固まっている義勇の口を塞いですぐ横の入り口から廊下に連れだした。
そうして平均よりはだいぶ細いとは言え、成人男性である義勇を肩に担ぎ上げて走り出す。
騒がれる前に、気づかれる前に…と、思いつめていたとはいえ、我ながらとんだ火事場の馬鹿力だなと感心した。
突発事項に弱い義勇はしばらく硬直していて、我に返ったらしく抵抗を始めたのは広間からだいぶ離れた実弥の部屋の前で下ろした時で、
「ちょっと話をしてえだけだァ!」
と言う実弥を不審者を見る目で見てくるのに地味に傷ついた。
だが、
「ここで騒いだら迷惑だろォ!
部屋に入るぞォ」
と”迷惑”ということを強調すると、お育ちが良いのか人が良いのか、思い切り怯えた様子を見せながらも部屋へと連れ込まれてくれた。
しかしながら
「ほら、あがれェ」
と室内に促すも、義勇は玄関先で
「…ここでいい…」
とプルプルと首を横に振る。
そして
「…そ、それで…なんで俺はここに連れて来られたんだ…?
宇髄から…不死川はもう俺を殴ったり怒鳴ったりしないって言ってたって聞いたんだけど…」
と思い切り警戒の色をにじませながら言った。
完全に怯えられている。
まあいきなり拉致したのだから仕方ないと言えば仕方ないのだが、ここ1日2日、ほぼ付き合いがなかったはずの錆兎に随分と打ち解けた様子の義勇を見ていたので、ひどく傷ついた。
今までならその苛立ちを目の前の義勇にぶつけてしまっていたところだが、さすがに実弥もそこは堪える。
ここでキレたら全てが終わりである。
なので何度か深呼吸を繰り返し、気を落ち着けると、
「それは本当の事だ。もう殴りも怒鳴りもしねえ。
単にお前と二人きりで話をしたかっただけだァ」
と、なんとか静かな声音で切り出すことができた。
う~わ、実弥サイテー……拉致が暴力だって認識すらしてないじゃないですか。客観的に見たら義勇の今の立場ってストーカー犯罪者に捕まって今にもレイプされそうになってる被害者でしかないんですけど。
返信削除本人、終わり良ければ全て良しで経過のやばさは考えていない感じですね。
削除終わりが良ければ…にならないと、自分が終わってしまうのですが😅