捕獲作戦_完了_不死川実弥の最後の企み

今日、絶対に決めるっ!!
実弥はそう決意して、夕食を摂る宴会場へと足を踏み入れた。

隣では宇髄がそんな実弥に
「…おい…そんな何かやらかす気満々の険しい顔すんな。
さすがにバレるぞ」
と呆れたように言って、宥めるようにポンポンと軽くその背を叩く。

ああ、そう言われればそうだ。
最初で最後、失敗は許されないのに、気づかれるような顔をしている場合じゃない。
気乗りしなさそうだったのに、それでもそんな自分のミスを指摘してフォローをいれてくれる宇髄には本当に感謝だ。

普通なら見捨ててるレベルなのに寄り添ってくれる宇髄との友情は大切にした方がいいという錆兎の言葉を思い出し、改めてその通りだな、と、実弥は思った。


とりあえず宇髄のアドバイスに従って、極力思いつめたような様子を見せないようにして美味そうに食事を口にしてみたのだが、実際のところ緊張しすぎて味なんて全くわからない。

そりゃあそうだ。
18年間の集大成がこのほんの数時間の間にかかっている。

確かにこの旅館は結構なお値段の高級旅館で今度また来ようかなんて気軽に思える所ではない。
だが、実弥の務めるこのKSTコーポレーションは、脳筋コンビのように大きなプロジェクトをいくつも抱えた出世頭達には遠く及ばない極々普通の社員である実弥でもそこそこの給与が支払われているため、少し思い切ってと思えば来ることは出来なくはないと思う。

だが、義勇と想いを通わせるチャンスはおそらく今日を逃せば二度とない。
失敗は絶対に出来ないのだ。

しかも、ではどうすれば二人きりになれるかなど実弥では思いつかないので、宇髄が居なければ詰むところである。

しかし義勇から脳筋コンビを引き離してくれなどと方法も示さず無茶を言う実弥の要望を、宇髄は気は進まなさそうだったにもかかわらず、引き受けて計画を建ててくれた。

本当にありがたすぎて今後は足を向けて眠れない。
心の中で宇髄を拝み、そして義勇を前にした時のことを想像し、と、脳内で色々忙しく考えながら、実弥は無心に箸を動かした。

そうしてある程度食べたところで、
「じゃ、俺はちと考えたいことがあるから、部屋に帰るわ」
と、同室なために一つの鍵を共有している煉獄に鍵を自分が持っていくと言うことを伝えて、宴会場を出た。

そうして念のためいったん部屋に戻って時計とにらめっこをして待つ。

宴会場では宴もたけなわ、幹事の宇髄が余興にビンゴをやっていて、その手伝いにどうせなら人気者の脳筋コンビをと誘ってくれているはずだ。

義勇には村田がついていて、しかし脳筋コンビほどではないにしろ、友人知人の多い宇髄が途中でさりげなく義勇から村田を引き離し、義勇を入口近くまで誘導するように頼んでくれているので、あとは誘拐もどきになってしまうが、半ば強引にでも義勇を連れ出す計画になっている。

あれだけ義勇の気持ちを尊重しろと口を酸っぱくして言われた直後の行動がこれなので、失敗したら本当に後がない。

義勇と付き合うどころか、錆兎を本気で怒らせればおそらく、良くてハラスメントで会社に居られなくなる、悪くすれば煉獄の弟をイジメて少年院送りになったいじめ加害者のように法的に訴えられて前科者だ。

どういうコネクションなのかは知らないが、高校生の時点で、学校側は大ごとにしたくないというスタンスでいて普通なら割合と人権を考慮されて法的な処罰まではされにくい未成年の少年を、一気に少年院送りにできてしまう男なのである。

今回、義勇が実弥にほだされてくれてかばってくれなければ、自分は明日と言わず、今日数時間後には刑務所行きだ。

それでも…それだけの危険があっても、実弥にとっては諦めきれない想いがそこにある。
人生をかけた一世一代の告白劇まであと十数分。
不死川実弥は息を殺してその時を待っていた。









2 件のコメント :

  1. 義勇さん〜、どうかご無事で🙏
    なんか2日前からハラハラドキドキが止まりません!

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    1. 実弥以外の全員と言って良い人間が義勇の味方なので結果はお察しと言うことで😁

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