捕獲作戦_完了_諦めきれない想い

一人きりになった旅館の部屋で、実弥はグルグルとまとまらない思考に没頭している。

ほんの半日くらいまではこんなことになるとは思ってはいなかった。
義勇に避けられている自覚はあったものの、二人きりになって自分に悪意はなく、義勇の事が好きで今後殴らないと言えば、普通に付き合えるのだと疑ってもみなかったのである。

しかしふたを開けてみれば、義勇が実弥が殴らないと言うこと自体が信じられないから二人きりで会うのは身の危険を感じるから嫌だと言っていると言われるだけではなく、同期でも有数の人気者の男と付き合うことにしたのだと告げられた。

その相手の男は本来なら腹の立つ存在なはずなのだが、どうも憎めない。
一方的に実弥を糾弾してくる相方の方とは違って、実弥の気持ちを汲んでくれようとする意志を感じるからかもしれない。

男は自分は親しい人間の意志から尊重していくから義勇の意思が最優先なのだと言い、その義勇が実弥を選ぶというなら、自分は身を引く気はあるとまで言う。
つまり、男と付き合うことになったとは言っても、義勇しだいでいつでも解除できる関係ということだ。

そして男は実弥は十数年かけて義勇の信用を無くしてきたのだから、それを取り戻すには同じ以上の時間をかけないとならないと言うが、そんなに待てるはずがない。

義勇は流されやすい人間だから、二人きりになって実弥が強く主張すれば絶対に頷くはずなのだ。

もちろん、最初はやや無理やり気味だったとしても、付き合うことになったらそこからは大切にするし、自分を選んだことを後悔はさせない。

だから本当にきっかけだけなのだ。
だが現状それを作ることがすでに難しい。

少なくとも一人では絶対に無理だ。
しかもこれまで不死川の側に立って協力してくれていた宇髄はいつのまにか脳筋トリオ…錆兎の側に抱き込まれている。

しかしだ…これは逆に考えればチャンスかもしれない。
脳筋トリオの側が宇髄を味方だと思っている今なら、宇髄をなんとかこちら側に引き込めれば脳筋トリオを出し抜けるのではないだろうか…。

確かに煉獄に比べて錆兎の方はずいぶんと実弥の心情にも寄り添って色々考えてくれた気はするし、それを騙すと言うのは若干心が痛まないでもないが、小学1年の時から実に18年間も思い続けてきた気持ちを考えると、今更あとには引けないのだ。

錆兎はなんのかんのでいい奴だから、実弥が最終的に義勇を幸せに出来れば許してくれると思う。
最悪許してもらえず恨みを買ったとしても、せいぜい会社内の立場が悪くなる程度だ。
そうしたらもう転職でもなんでもすればいい。

そう、義勇と一緒になれるなら、会社なんてくそくらえだ。

そんな決意を固めたところに、ノックの音と共に宇髄の声がする。
さあ、ここが正念場だ。
と、実弥はドアを開けるなり、ガバっと宇髄の前に土下座した。









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