──…ふっ…ふざんけんなァ!!何横からかっさらってんだよっ!卑怯もんがァ!!
そしてその勢いで錆兎の襟首をつかむ。
つかまれた錆兎の方はと言うと、それに驚くこともなく慌てることもなく、むしろ宇髄の方が
「横からじゃねえよっ!!
付き合ってたわけじゃねえし、好きだってことすらついさっき言ったんだから、鱗滝の方は別に怒られる筋合いはねえだろっ!!」
と、怒鳴り返した。
「そんなの関係ねえっ!!」
と、もう色々感情的になり過ぎて考えられずにさらに怒鳴り返す不死川。
思わず拳をふりあげるが、それが錆兎の顔面を捉える前に、その腕を錆兎の手が捉えていた。
「まあ、落ち着け、二人とも」
と、錆兎がまるで他人事のように言う。
錆兎が軽くつかんでいるように見える不死川の手首は、不死川がなんとか振り払おうとプルプル震えているわりにビクともしないことに宇髄は驚くとともにホッとした。
そして少し冷静になって乗り出していた身を少し落ち着けるように座り直す。
その様子にどうやら宇髄の方は落ち着いたとみて、錆兎は苦笑しつつ不死川に向き直った。
「暴力を振るってもロクなことがないというのは、もう充分学んだんじゃないか?
学生時代の付き合いの延長線上ならとにかくとして、今、もう社会人になって深い付き合いもない同僚をいきなり殴ったら、お前の将来が取り返しのつかないことになる可能性も低くはないからやめておけ。
俺の側の事情の変化と義勇との関係、あとは高くはないがお前に残されている希望が通る可能性についても話しておくから」
飽くまで穏やかに淡々と。
そんな錆兎の言葉の中から、希望が通る可能性という言葉を聞き取って、不死川も少し頭が冷えたようだ。
「…可能性…あんのかよォ」
と暴れた手前少し気まずそうに視線を逸らしながら言う。
「…世の中、可能性が100%ないと言うものは滅多にない。
だから自分の未来が少しでも良い可能性に満ちていくように、常に努力はした方が良い。
それでももし目的が叶わなかったとしても、努力したものは無駄にはならないし、別の可能性が開けることだってある」
「…俺は…冨岡と付き合う以外の可能性は要らねえんだけど…」
「じゃあ、それを0にしないためにいったんは話を聞いて情報を蓄積しろ」
「おう…」
…なんで大人しくなるんだ?あの実弥が??
と、宇髄は驚いた。
自分がいくら言っても全く言うことなんて聞かなかった旧友が大人しく話を聞く体制になっていることに、宇髄はもう言葉もなく、錆兎を眺めている。
宇髄だって人間関係がかなり巧い方だと思うし、友人知人も多い方で、もちろん仕事もできる奴だと評価されているのだが、これはもうレベルが違う。
伊達に社内で1位2位を争うと言われている男じゃないな…と、脱帽してしまった。
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