こうして3人きりになったところで、
「お茶をいれなおすな」
と、錆兎が新たにお茶と菓子の準備を始めた。
「錆兎、錆兎、団子を2つずつ半分こしたいっ!」
と、残った和菓子のパックを覗き込んではしゃいでいる。
2つずつ半分こにして食うことを提案するくらい、義勇は錆兎に心を許しているのか…と思えば、そこからの逆転劇などまず無理だと言うことは宇髄にもさすがにわかってしまった。
「いいぞ。先食ってあと寄こせ。
でも菓子を選ぶのは、客人だし宇髄が先な?」
と、いれなおしたお茶を配りながらそう言う錆兎も、煉獄と同様どこか気のいい兄貴の顔を覗かせる。
煉獄が村田の鶯餅と自分の芋羊羹の他にも思い切りたくさん抱えて行ったにも関わらず、まだだいぶ残っている和菓子。
「おいおい、これ3人で全部食うのかぁ?」
と苦笑すれば、
「いや?せっかくの夕飯が食えなくなるし、今は1つずつ。
で、余ったら夕食後に食える奴に配って、それでも余ったら、つながっている先はたぶん宇宙のブラックホールな杏寿郎の胃袋の中だ」
と、錆兎がすまして言った。
それに
「確かにっ!杏寿郎の胃袋は底なしだよねっ」
と、笑い声をあげる義勇。
驚いた。
小学校の頃からの付き合いだが、宇髄は義勇がこんな風に声をあげて笑うところを見たのは初めてだった。
出会って2日でこれだけということはもう、マイナスから始まる不死川どころか、プラスから始まっている自分ですら彼らと義勇を争っても勝ち目はなかっただろう。
何気ない一つ一つの出来事でそう思わされる。
それほどに懐かれた錆兎が居れば、義勇の方は不死川の謝罪の言葉を聞くことを拒みはしないだろう。
しかしそれは不死川を信用してではない。
自分が言って錆兎が保証したとしても、不死川の好意を信じるかどうかもわからない。
それでも義勇が不死川が謝罪のために近づくのを厭わないのは、嫌なことがあったとしても錆兎が絶対になんとかしてくれるという、錆兎に対する信頼のためだ。
下手をすると不死川の良い方向への心境の変化は錆兎のおかげだとさえ思いかねない。
義勇の方も小学生時代から知る宇髄には、そんな義勇の心境が手に取るようにわかってしまった。
最悪義勇の方はもうそれでも構わない。
不死川を避けない嫌わない怯えないでくれれば、宇髄的にはそれ以上は望まない。
というか、望むのはもう無理だろう。
義勇の方は大丈夫。
不死川が居なくても幸せだが、別に居ても不幸にはならない。
態度が変わらなければ脳筋コンビが成敗してくれるだろうし、態度が良くなって近くに居るようになっても、それはそれで脳筋コンビに対する信頼からトラウマを突かれることはない。
問題は不死川の方だ。
そう、不死川が望んでいるのがそういう穏やかな関係の友人の一人になることではなく、義勇の唯一になる事なので、それが叶わないとなった時にどう出るかを想像すると頭が痛い。
さきほど3人の話し合いで錆兎が言った通り、不死川がしたい謝罪と言うのは、義勇の恋人になるために関係を良くしたいがためのものであったため、それが不可能、ましてや錆兎とくっついてましたとなった時に自棄になって荒れる可能性が低くはない。
その矛先が自分に向くならいいが、義勇に向くようなことをしたら、不死川自身が脳筋コンビに社会的に抹殺されかねないと思う。
宇髄的にはそれは一番避けたいところだ。
予定ではこのまま自分が義勇に不死川の本心と謝罪したいと思っている旨を伝えて、おそらく謝罪を受けても良いと言う義勇に対して謝罪と告白をする不死川…という流れになるのだろうが、その後が荒れる。
少なくとも不死川は失恋する覚悟は出来てはいない。
あれだけ『加害者は一生加害者でやった事実は消えないのだ』と杏寿郎に責められていても、告白さえ出来れば自分の想いは叶うと信じているのだ。
ショックはどうやっても受けるだろうが、それが落ち込む方向なら宇髄は不死川が立ち直るまでどれだけかかろうと付き合う覚悟はある。
が、それが破滅に向かうとわかっても、不死川は自棄になれば荒れて、義勇に対して今まで以上に攻撃的になる可能緒性も高い。
そしてそうなったらもう宇髄にも止めるのは不可能だ。
どうする?
どうすればいい?
と、悩む宇髄。
そんな宇髄を前に、なんだか菓子の選択に悩んでいると思ったようで、義勇が
「宇髄、そんなに悩まないでも絶対に1つじゃなくても良いんだぞ?
夕食食べられるなら、2個でも3個でも食べればいい」
と明後日の方向の理解を示す。
そこじゃない。
別に菓子は良いんだが…と思いつつも、あいまいな笑みを返す宇髄。
まあ幸いなことに錆兎の方は例によって宇髄の悩みを正確に把握してくれたらしい。
「今義勇に話すのは不器用なだけで悪意はなかったことまで。
それ以上はこのあともう一度俺と宇髄と不死川で話し合った方が良さそうだな。
俺も先に宇髄に話したうえでと思ってお前と二人の時に色々話したが、不死川自身も全てを把握したうえでどこまで明かすかを決めた方がトラブルが少ない」
と言ってくれて、安堵のあまり泣きそうになる。
そして宇髄が
「…もう至れり尽くせり過ぎて、俺の方がお前との交友関係深めたくなってきたわ」
とついつい漏らすと、錆兎は
「そうかっ!歓迎するぞ?
なんなら杏寿郎と炭治郎と4人で新脳筋四天王でも名乗ってみるかっ?」
などと軽口をたたきつつ、ハッハッと笑った。
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