捕獲作戦_完了_鱗滝錆兎の魅力

はあぁあ??待てっ!やめてくれえっ!!

あまりの展開に宇髄は今度こそ絶叫した。
確かに何もなくとも不死川の想いを叶えるのは難しいとは思うが、こんな社内でも一位二位を争う人気者がライバルになんてなったら、もう100%無理だろう。

しかし
「ちょっと待てっ!ほんっとに待ってくれっ!
それは勘弁してくれよっ!
お前モテるんだから、何も冨岡じゃなくてもいいだろうがっ!」
という宇髄の叫びにも、錆兎は淡々と

「誰に惹かれるかは別にモテるモテないの問題じゃないだろう?
人を好きになるのは理屈じゃない。
それを言ったら不死川だって嫌われているのがわかっている人間に固執しなくても、もっと両想いになる難易度が低い相手はいくらでもいるんじゃないか?」
と、実にごもっともな事を言ってくれる。

「いや、そうだけど…そうなんだけどよ…」
混乱で言葉が続かない宇髄。

それに錆兎は
「第一俺はモテはしないぞ?
正確には…内面を知られると秒で振られる」
と、本当か?と思われるようなことをやはり淡々と告げて来た。

しかしそこでふつふつと沸き上がる好奇心。
内面?内面って?
と、裏表のない気持ちの良い脳筋と思っていたら実はとんでもない策略家という一面を持っていたこの男について興味がわいて

「…秒で振られる内面って?」
と、それどころではないはずなのに思わず聞くと、錆兎はガシガシと頭を掻いて言う。

「学内でも社内でも、それなりの結果を出そうと思えば周りに合わせることは必要で、幸いにか不幸にか、俺は相手の需要をある程度察してそれを提供できる才能があった。
社内でも人気部署の企画営業部でそれなりの実績をあげるのにそれにふさわしいビジネスマンとしての自分というものを作ることもするが、俺は基本、外交的で華やかな人間ではない。
今会社勤めで上を目指しているのは、現役時代に稼げるだけ稼いで、早期リタイアをして、祖父のように山で基本自給自足して、それでは手に入らないようなものだけ貯蓄で購入して暮らす、そんな生活をしたいからだ。
で、そんなことを寄ってくる女性に話すと笑顔で素敵だと言ってくれるが、それがガチだとわかると逃げられる。
そう言えば…会社で最初に俺のことを脳筋と広めたのは、入社研修後すぐに熱心に誘われて付き合うことになった同期だったな。
彼女が想像していた山の暮らしと言うのは高原の別荘地で街中と遜色のないものを揃えて優雅に暮らすというものだったらしく、畑仕事やイノシシをさばく話とかをしたら、そんな田舎暮らしがしたいわけじゃない!と罵られて振られたんだ」

淡々と語る錆兎。
義勇も天然だが、こいつもかなり天然なのでは?と宇髄はなんだか鱗滝錆兎という男の多彩さに興味を惹かれた。

「イノシシ…さばけるのかよ」
と思わず合いの手を入れてみると、
「さばけるぞ」
と返ってくる。

「剣術家だった爺さんは俺が小学生の頃にはすでに山でそういう暮らしをしていたしな。
幼い頃からその生き方に憧れていたし、俺も18歳でわな猟免許、20歳で銃猟免許を取得している」

「まじか、銃撃てるのか。
もしかしてクマとか倒したことあるか?」

「俺も一応はある。
だが爺さんはなんだかわからんがすごい剣術の達人でな。
クマは銃じゃなく刀で倒せる。
あ、でも普通は難しいらしいぞ。
クマは分厚く頑丈な毛皮で覆われているから、刃の通るわずかな急所を正確に斬らないとならないからな。
俺がクマを狩る時は銃じゃなければ槍だな。
刀よりは急所に狙いを定めやすい。
だが食うとなると、リスクのわりにクマ肉は美味いとは言い難いから、むしろイノシシの方が狩りやすいし肉も美味いから良いと思う」
と、そこまで話した辺りで宇髄はさきほどまでの認識を改めた。

俺が間違っていた。
こいつは本質的には脳筋だ。…と。

だが確かに面白い。
不死川の事が無ければそれこそ親友に立候補したいレベルで面白い男だ。


「というわけでな、先ほども言ったんだが、俺は知人は多いが友人以上の親しい人間は家族を除くと25年間生きて来た中で3人しかいなかったんだ。
成績優秀な生徒会長だったり、稼ぎ頭の企画営業部のエースが好きな人間はたいてい、山で畑を作ってイノシシを狩って生きて行きたい無骨な男を好ましくは思わないからな。
実際、今回義勇を連れて行った場所というのは、洒落た料亭でも観光名所でもなく、飯は地元民の行く美味いが小さな割烹だし、今日時間をつぶしたのはやっぱり地元の爺さん婆さんが集う公衆温泉で、扇風機が回っているだけのそこの休憩所で爺さん婆さんに混じって一緒に昼寝をしていた。
俺が小学生の頃に山で暮らす爺さんに連れて行ってもらったちょっとした娯楽の場だったんだが、義勇は嫌な顔をするどころかすごく楽しそうにしてくれて、実際楽しいと言ってくれたんだ。
俺は御愛想を言われることにも慣れているから、逆に義勇が本当にそう思ってくれていると言うのは感じたしな。
自分が好きな空間を一緒に楽しめる相手と言うのは、少なくとも俺のような人間だとそういるわけではない」

これは運命だ!…と言い切る脳筋。
本来ならそこは否定しなければならない立場なのだが、あまりに面白すぎて宇髄はそれに否ということが出来なかった。









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