──待っている間に伝えておくことがある。
不死川が出て行って義勇、煉獄と順に電話をして事情を話して指示を伝えて通話を終えたあと、錆兎は半分ほど減った宇髄の茶を注ぎ足しながら、そう切り出した。
脳筋…という評価にはやはり異議を申し立てたい宇髄ではあったが、さきほどまでの淡々としているがゆえに感じていた圧がなくなって、少し緊張を解いて足を崩す。
そして
「もしかして特に他意はないと言いつつ、鱗滝も煉獄と同様、実弥に思うところがあったのか?」
と聞くと、錆兎は視線を少し上に向けて考え込んだ。
「あ~…どうだろうな。
俺は知り合いは多いが友人以上の人間は極端に少ない人間でな。
25年間生きてきて家族を除けば杏寿郎と村田、それから最近新入社員の後輩の炭治郎が加わったが、その3人しかいなかったんだ。
それで今回そこに義勇が加わった。
で、俺は別に誰かが俺に悪意を持とうと敵対しようと、その相手の存在が有意義かそうではないかという意識しかなくてな。
唯一、俺にとっての敵はその数少ない大切な相手に対して害のある人間だから…。
不死川が義勇に対して今後は一切害がある行動を取らず、義勇が望まないなら接触も控えると言う理性があるなら問題ない。
悪意がなく今後暴力暴言を控えると伝えることで義勇の不安が減るなら歓迎する。
だが今の時点ではそのあたりどこまで義勇の気持ちを優先する気があるのかわからないから、俺にとっての不死川はまだ要注意人物ということだ。
宇髄に関しては義勇が好意を持っているから、俺の中の評価も普通の人間より上だということで、納得してもらえるか?」
「あ~~、なるほど。理解した。
つか、煉獄の方は確かに脳筋な部分が多々あるが、お前の方はむしろその評価と真逆じゃね?
敵に回したら気づかないうちに社会不適応者として周りからハブられていそうで怖いわ」
と、思わず漏らすと、錆兎は曖昧な笑みを浮かべる。
「他人は勝手に評価してくるからな。
俺の本質がどうなのかは、俺自身もわからん。
まあ俺の事は良いとして…話を進めてかまわないか?」
とそこで軌道修正されて、宇髄も今すでに義勇がこちらに戻りつつあるなら時間はそうないであろうことに気づいて、頷いた。
「ああ、話をそらせて悪い。
で?俺だけのところで話ってなんだ?」
「義勇の不死川に対する認識なんだが…」
「?」
「一応な、勝手に修正はさせてもらっておいた」
「…っていうと?」
「義勇は不死川が義勇を嫌っているからこその暴力暴言だと思っていたんだが、俺は好意の裏返しだと思ったんで、おそらく小学生男子が好きな子をイジメてしまうような行為の延長線上だろうと説明をした」
まじかっ…と宇髄は驚きに目を瞠る。
そして恐る恐る
「…っつ~ことは…今実弥に会いたくねえってのは、それをわかっていてもってことか?」
と、確認した。
しかし状況はそこまで絶望的ではなかったらしい。
錆兎はそれに首を横に振った。
「いや?信じなかったようだから。
義勇は未だ不死川は自分に悪意を持っていると思っていると思う。
ただ、俺の方で勝手に他人の気持ちを憶測で話してしまっていたことに対して先に言っておこうと思っただけだ」
信じられていない…信じてもらえないと言うことは歓迎すべきことではないが、信じてそれでも拒絶をされるよりはまだマシな状況だ。
そう、本当にうまくいくことを望むと言うよりもう、最悪を避けるという方向になってきている気がする。
しかしそんな宇髄のなかの大幅な譲歩も、錆兎の次の言葉でだいなしになることになる。
「わざわざ実弥のことをそうやってかばってやるって…お前実はいい奴かよっ」
と、あれだけ警戒をしていたのに思わず漏らす宇髄に、錆兎は苦笑。
「いや?いい奴か悪い奴かと言われれば、不死川にとっては悪い奴だぞ?」
「は?なんで?」
「その話をしたのは、だ、少しでもフェアにしたかったからだ」
「…???」
「つまりな、一緒に逃げ歩いているうちに俺自身が義勇に惹かれてしまったからだ」
0 件のコメント :
コメントを投稿