こいつぁ、まずい展開になってきた…と、宇髄は冷や汗をかく。
最終的に義勇の側に判断をゆだねると言うのは仕方ないにしても、その過程で不死川にどれだけ弁明の余地を与えられるのか…それとも全く与えられないのか。
その状況を覆すには申し訳ないが自分が間に入ることで義勇にも我慢をしてもらって、暴力暴言を振るわない不死川というものに慣れてもらって、信頼してもらうしかない。
だが、義勇の側にいかなる我慢もさせるなという錆兎の案だと本当に詰んでしまう。
では今回の社員旅行中は諦めて時間をかけてと思っても、もう脳筋コンビは本腰を入れて介入する気になってしまったのだ。
普段も…それこそ来年の社員旅行でもずっと彼らに阻まれる。
もう二度と近づくチャンスなんて出来ないだろう。
不死川が悪い。
それは宇髄も思う。
宇髄はずっと注意してきたが、好きな子をいじめるなんて小学生男子のような真似を十数年続けるとかありえない話だ。
だがしかし、だがしかしである。
その十数年の間、不死川はずっと義勇への想いを抱え続けてきたのだ。
他の誰かに気持ちを移すでもなく、一途に義勇を想い続けてきた気持ちを、告白する機会も与えられずに捨ててしまえとはさすがに言えない。
義勇はなんのかんの言って優しく流されやすいところがあるので、宇髄が間に入って保証しつつ、不死川が思い切り後悔しているところを見せれば、不死川と居るのが絶対に嫌だとは言わないと思う。
そして一緒に居る時間が増えればきっと不死川のいいところもわかってもらえるだろう。
そう、素直に表現するのが苦手なだけで、不死川はいい奴なのだ。
元々は6人もの弟や妹の居る長男だけあって面倒見が良い優しい男である。
素直にさえなれれば少しばかりぼ~っとしたところのある義勇をマメに面倒をみるだろうから良い関係が築けると思う。
不死川にとってはもちろん、義勇にとってだって悪いことにはならないはずだ。
別にどちらに肩入れをするとかではなく、宇髄は幼馴染双方にしあわせになってもらいたいと心の底から思っている。
そのためにはどうするべきだろうか…。
…ここが正念場だ。考えろ、考えるんだ、宇髄天元…
軽い男に見えて実は情に厚い宇髄は不死川の十数年に及ぶ想いをなんとかしてやりたくて必死に考えた。
そして考えて考えて考えて……一つの結論に辿り着く。
「あのよ、今のままだと冨岡は実弥に近づきたがらねえ」
と、口にすると隣で不死川が身を固くするのがわかる。
一方で錆兎の方はそれに相変わらず淡々とした口調で
「ああ、そうだな。それで?」
と先を促して来た。
「義勇に過度のストレスを与えねえように、でも最低限実弥の気持ちは伝えさせてやりてえってのが今の俺の正直なとこなんだよ。
ってことで提案だ。
まずはお前が一緒でもいいからよ、俺から義勇に弁明させてもらえねえか?
そこに実弥がいなきゃ、俺だけならあいつも別に怖がりもしなきゃ、緊張もしねえだろうしな。
それでも俺が言い過ぎると思えば、そこはお前がストップかけりゃあいいだろう?」
本人ではなく他人の宇髄が伝えるというのは、あまり良いとは思えないのだが、しかし打つ手はこれしかなさそうだ。
「ふむ…。
そうだな、一応義勇の意思も聞かねばならないが、俺個人はそれなら問題ないと思う」
と、顎に片手を当てて少し考えた末、頷く錆兎に安堵する宇髄。
「…実弥も…そういうことでいいな?」
とそこでもう片方の当事者である不死川に一応確認を取ると、不死川は硬い表情のまま、それでも頷いたことで方針が決まった。
「では不死川はいったん自室だな。
宇髄はこのままここに残ってくれ。
俺は義勇に確認を取る」
と、言われて不死川が肩を落としつつもとりあえず自室へと戻っていくと、錆兎は義勇の携帯で状況を説明する。
そうして話がついたらしい。
「今から杏寿郎に電話をして不死川が部屋につき次第、義勇を迎えに行かせてここに連れて来させるから、話す内容をまとめておいてくれ」
と、実に手際よく問題が起こらないように事務的に進める錆兎を前に、
(…こいつを脳筋って言い始めた奴、ふざけんなよ…)
と、宇髄は心の中で誰ともわからない相手に対して文句を言いつつ、これから話す内容をまとめ始めた。
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