捕獲作戦_完了_脳筋その2との交渉

思いもかけず手厳しかった煉獄とのやりとりのあと、こちらは思いもかけず穏やかに始まった錆兎との話し合い。


「杏寿郎と話してすぐこちらに来たということは、杏寿郎から思い切り拒絶されたからということなんだろう。
で、俺についてなんだが、俺は宇髄にも不死川にも個人的に思うところはない。
不死川の義勇に対する態度はいただけないとは思うがな。
ただし俺は自分が親しい順に優先していくから、不死川より義勇の気持ちを優先させてもらう。
そのうえでの判断として、理想は不死川が義勇に危害を加えない、そしてそのことを義勇が認識できることだと思っている」

小学校の頃からの付き合いの自分ですら未だ冨岡なのに、ここ二日ばかり同室だっただけの錆兎が義勇と名前で呼んでいる。
それには不死川も思うところはあるわけなのだが、それでもあまりに色々が上手くいかなくて、直前には煉獄に痛い所を突かれまくってさんざん否定されてきただけに、少なくとも自分が義勇に対して謝罪して相手からの認識を改めてもらうことに対して否定をしてこない錆兎に対しては、感謝しかない。

「ああ。もちろん二度と暴言暴力は向けねえ。
元々今回の社員旅行中に今までのことを全部謝って、これからは仲良くやっていければ良いと思ってんだ。
それに協力してくれんならめちゃ感謝するっ!」

パン!と手を合わせて頭を下げる不死川。
しかし宇髄はそこまで素直にその言葉を良い方向に受取ることは出来ない。

普通ならここで同室の錆兎が間に入って義勇に説明してくれて不死川が謝罪して…となるところだが、本当にただ協力すると言うことなら、最初の自分は自分の親しい人間から優遇するという言葉は口にしないのではないだろうか。

そもそもが今回、徹底して不死川を義勇に近づけないように望んだのは煉獄かもしれないが、それを実際に画策したのはこの男なのだ。

油断するなよ、実弥っ!こいつの方が曲者だっ!と注意を促したいところだが、厳しかった煉獄との落差のせいもあって、不死川は完全に錆兎の言葉に安堵しきっている。

そして…その宇髄の予想は正しかったようだ。

不死川に頭を下げられて、錆兎は苦笑した。
そして言う。

「勘違いしないでくれ。
俺は不死川に対してプラスもマイナスもないから、お前に何かしてやりたいということではない。
単に義勇の不安を取り除けるなら取り除いてやりたいだけだ」
「それでもいい!
別に俺のためじゃあなくても、協力してくれんなら全然構わねえっ!」

それでも頭を下げたままそう言う不死川に、錆兎はありえないことを言った。

「協力はしないぞ?」
「へっ???」

その言葉にさすがに驚いて顔を上げる不死川。
宇髄もその意味を取りかねて錆兎に視線を向ける。

「正確には…不死川が謝罪をしたいと思っているという旨は義勇に伝える。
だが実際に謝罪の機会を取り持つかどうかは不死川次第だ」
「俺…しだい?」
「ああ、そうだ。
まず不死川がきちんと謝罪をするということを理解していると判断できたらということが最低条件だ」

「出来てるっ!出来てるから謝ろうって思ったんだっ!」
と身を乗り出す不死川だが、宇髄はなんだか嫌な汗をかいてきた。

「ではまず何故謝罪をしようと思った?
謝罪をしてどうしたい?」

淡々と聞く錆兎。
口元は笑みの形を描いてはいるが、目が笑っていないのが恐ろしい…と宇髄は身震いする。

そうだ。
弟を守るために物理で加害者を引き離そうとした単純な煉獄より、社会を巻き込んで法的には正当と言われる方法で自分達の側はリスクを負うことなく相手を追い込んだこいつの方がやばい。

間違えるなよ、絶対に答えを間違えるんじゃねえぞ、実弥…
手の震えを抑えつつそう視線を送る宇髄だが、不死川はそれに気づかない。

勢い込んで
「実はっ!小学校の頃から冨岡の事が好きで、でも素直になれねえでついキツく当たっちまってたんだっ!
だから…それを言って、これからは大切にするって言って…でもって、あいつの特別になって仲良くやってきてえんだっ!!」
と言ってしまって、宇髄は頭を抱えたくなった。
企んでいる相手に自分の弱みを全部曝け出す馬鹿がいるかっ!と不死川の後頭部をどつきたくなる。

腹を割って本心を話せば絶対に協力してもらえる。
そんな風に考えているのだろう。
ある意味表に出る態度は素直じゃないくせに心根はとても素直な不死川に、宇髄はなんだか泣きたい気分になった。

一方で自分の見込み違いであってくれ…と、そのシビアさについて警戒していた錆兎は、宇髄の願いもむなしく、思ったよりもはるかにシビアな性格だったらしい。

腕組みをして不死川の発言を聞き終わったあと、はあ~と大きくため息をついて見せた。

「今の発言でまず指摘したい点がいくつか。
わかっていると思うが、大切にするとかついやってしまったと言うのは謝罪の言葉ではない。
謝罪の言葉と言うのは、ごめんなさい、申し訳ありませんなどの言葉だ。
言い訳より先にまず、これらの言葉を述べるべきだ」

あ~…と宇髄は片手を額に当てて天井を仰いだ。
まるで子どもに対するような注意をされている時点で前途多難だ。

しかしてっきりそれに反発するだろうと思っていた不死川は、ここで無駄に反感を買えば全てが終わると言うことはさすがに理解しているのだろう。

「ああ、そうだよなァ。
ちと気持ちが先走っちまった。
気を付ける」
と、素直に認めたので、そこはホッとした。

しかし錆兎の指摘はまだまだ続く。

「わかればいい。
まず謝罪の言葉を述べるのが基本なわけだが…それを受け入れるかどうかは被害者側の権限であり、加害者側は何も言う権利はない」

「へ??」
と意味を取りかねて目を丸くする不死川。
逆に言わんとすることを理解した宇髄はまた頭を抱えた。

「ごめんなさいという言葉で相手に一方的な暴力を許すことを促せるのは、善悪の判断がまだつきにくい幼稚園児までだ。
小学生以上…ましてや大人になってまで繰り返していたのなら、最悪、刑事罰を与えられても仕方のないことだからな?
被害者側が『謝罪をしたことはわかったが許す気はない』と言っても、警察沙汰にされなかったことに感謝をしつつ受け入れろ」

と、意味がわかっていない不死川にかみ砕いて言う錆兎のその言葉に不死川も楽観的な考えは全て吹っ飛んだらしい。

「で、でもよっ!こっちは反省して謝ってんだぜ?
一度でも過ちを犯したらもう人生諦めろってことかァ?!」
と、必死な様子で言うが、錆兎はこれにも淡々と

「人生を諦める必要はない。
ただ、被害者に拒絶されたとしたら、被害者との接触は諦めろというだけだ。
反省していようとしていまいと、やったことが消えるわけではない。
謝罪と言うのは自分がやった過ちを認めて反省をしているということを伝えるだけのもので、犯した過ちがなかったことになる魔法の言葉ではない。
ましてや被害者側に親しく交友関係を築くとか特別な間柄になるとかそういう自分のエゴを押し付けることが出来るようなものでもない。
相手に何かして欲しいから謝罪をするというようなものなら、しない方がまだ誠実でマシだと思うぞ?」

煉獄と違って全く感情的なものを感じさせることはない。
ただ淡々と告げてくるがゆえに、かえって反論を許さない印象がある。

煉獄の拒絶が高く険しい山ならば、錆兎が淡々と告げる事実と言うやつはまるでとっかかりも何もない高い壁のようだと宇髄は感じた。

「だから俺にお前が謝罪をする席を設けろというなら、まずきちんとした謝罪の言葉を述べることと、それを義勇が受け入れなかったとしても、感情的にならずに諦めること、それが最低限の条件だ」
と本当に淡々と条件を突きつける錆兎に、宇髄も不死川もなすすべもなく黙り込んだ。








4 件のコメント :

  1. 煉󠄁獄さんも正義感が強くてカッコ良いですが錆兎はそれに加えてクールでシビアでさらに!カッコ良すぎですね~。この錆兎の理論は本当に素晴らしいです。教育関係のお手本です!
    更新ありがとうございました🙇

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    1. 錆兎は煉獄さんの飽くまで直球な感じと対比させてみました😁
      実際はいじめとか犯罪とかは加害者に寄り添いすぎなので、フィクションくらいは被害者に寄り添いたい感がありますね😅

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  2. もしかしたら誤変換かな?報告です^^;「これからは仲良くやって良ければ」→「これからは仲良くやっていければ」ではないか…とお時間がありましたらご確認ください(*- -)(*_ _)ペコリ

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    1. ご報告ありがとうございます。
      修正しました😊

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