…あ~、これは無理だな
と、宇髄は早々に煉獄との交渉を見切った。
無抵抗の人間に暴力を振るい続けたと言う時点で、それからどれだけリカバリをするつもりがあったとしても、煉獄からすると相手は極悪人認定だ。
しかも本人が言う通り、そのことに関しては暴走するレベルで感情的な人間である。
それならむしろ脳筋コンビの残った片割れを当たった方がまだ成功率は高い。
煉獄の言葉を信じるなら、錆兎が今回関わった理由は飽くまで煉獄を暴走させないためであり、自分自身は不死川に関して特に思うところはないとのことだ。
話の持っていき方次第ではあるいは味方になってくれることもあるかもしれない。
煉獄との交渉が決裂したあと、宇髄は部屋を出てすぐに錆兎に電話をいれた。
『はい。鱗滝だ』
と、同じ脳筋コンビでも先ほどの煉獄のどでかい声を聞いたあとだと随分と穏やかに聞こえるその声にどこかホッとしながら、
「悪いんだが…これから俺とお前と不死川の3人で話せねえか?」
とお伺いを立てると、電話の向こうからはクスリと笑う声。
『そろそろ俺の方に来る頃だと思った。
いいぞ。俺達の部屋でどうだ?』
と返ってきた。
なるほど。
気のいい脳筋コンビとして有名すぎてすっかり騙されていたのだが、こちらは脳筋どころかとんでもない策略家ならしい。
そう考えると少し恐ろしくなってはくるものの、錆兎はあるいは感情的になるタイプではなく論理と理性が先にたつ人間なのかもしれないから、杏寿郎のように何を話してもシャットされるということはないかもしれない。
そんな一縷の望みをかけて、
「悪いな。じゃあこれからそっちに伺うわ」
と宇髄はアポを取って、今度は不死川と共に錆兎と義勇の部屋へと向かった。
「なあ…鱗滝の部屋って冨岡もいるんじゃね?いいのかよォ」
と、本来はそれは歓迎すべきところなのかもしれないが、あまりに避けられすぎたせいかついついそう漏らす不死川。
それは宇髄も思ったのだが
「ま、向こうから自分の部屋でって言ってきたんだから俺らのせいじゃねえし、いいんじゃね?」
と、もうそのあたりはあちらに丸投げする。
そうして二人揃って錆兎の部屋のドアをノックすると、
「よく来たな、まあ、あがれ」
と、気のいい脳筋コンビのイメージの通り、随分と愛想よく迎え入れてくれる錆兎。
「邪魔するぜ~」
と中に入ってちらりと目で確認する範囲には義勇は見えない。
そんな二人の視線に気づいた錆兎は
「ああ、今後の方向性が決まるまでは居ない方が良いと思ったから義勇は別室に預け中だ。
話し合いの結果次第では呼び戻すから」
と伝えてくる。
まあ避難させられるのは想定の範囲内のことなのでそれに驚きはしない。
だが、話し合いの結果次第では呼び戻すという錆兎の言葉は期待はしていたのだが望み薄だと思っていただけに意外だった。
気のいい人間というのが必ずしも万人にではなく、好意的に接する相手が多い人間だとしても、その相手に例外はいる。
疑ってもみなかった脳筋コンビの片割れの煉獄にはっきりと拒絶されたため、それを思い知った上でこちらに来たわけなのだが、錆兎の方は意外に普通に接してくるのに、不死川は正直戸惑っていた。
「お茶、飲むだろう?
甘い物は嫌いか?
嫌いじゃないなら買いおいておいた美味い菓子がある。
疲れていては良い話し合いはできないし、疲労には糖分だ。
良ければ少し食って落ち着いてから話そう」
と、その優しく好意的な態度が削られまくった心に染み入り過ぎて、すでに泣きそうだ。
「おう。家じゃおはぎ3つくれえペロッと食うくらいには甘党なんだ」
と答える不死川に、
「ああ、じゃあちょうど良かったな。
実は美味い和菓子屋を知っててな。
ご老人の夫婦がやっている小さな店なんだが、そこのあんこが好きで。
おはぎもあるから、出してやる」
と、何故か普通に懐紙を用意していてその上におはぎを置く錆兎。
菓子よりもその懐紙を凝視している宇髄の視線にも当然気づいて
「うちは武道だけじゃなくて日本の習い事も叩き込まれていてな。
茶道もやっていたから習慣で懐紙も持ち歩いているんだ」
などと説明をしてきた。
「じゃ、生け花とかも?」
「ああ、そうだな。あとは武道以外だと習字とか琴とかな」
とそんなやりとりで宇髄は納得した。
なるほど。
煉獄はある程度は脳筋のイメージに近い男のようだが、錆兎の方は実は脳筋というよりは煉獄と居るから武の部分が目立つだけで実はむしろ知的な男なのかもしれない。
おそらくここに抹茶と抹茶茶碗と茶筅があったなら、茶の一つくらい普通にたててくれそうだ。
「時間の都合もあるし、俺の方の認識を軽く説明するから、まあ茶を飲みながら聞いてくれ」
と茶を勧められたので、とりあえず茶菓子をかじりながら話を聞くことにした。
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