──わざわざ時間取ってもらって悪いな。
話し合いは当事者が占有できる部屋で…ということで、不死川と煉獄の部屋ですることになっている。
しかし二人きりにした時に下手をうたれるともう自分でもどうしようもないと、宇髄はそれまでの時間、自室に不死川を待機させ、二人で16時に不死川と煉獄の部屋へと向かった。
──実弥、茶な?
と、まずは余計なことを話し始めないように、宇髄は不死川にそう指示をして、自分が煉獄と対峙する。
本来なら当事者に話させるのが筋というものだし、煉獄も筋道と言うのを重視しそうなタイプだと思うのだが、今回は一歩間違うと取り返しのつかないことになりそうだからと、
「本当は実弥についての話だから本人に話させた方が良いんだが、時間もねえし実弥は感情的になりやすい男で短時間にチャチャっと説明とかは無理なんで、悪いが俺が代弁させてもらう。
そのあたりは勘弁な」
と、先にそのあたりを説明し、謝罪をいれておく。
幸いにして煉獄はそれに異論なしと言った様子で
「うむ。俺と話したいと言ったのは宇髄だし、そのあたりは構わないぞっ!」
と頷いたので、第一段階突破だと、宇髄は内心ほっと溜息をついた。
さて、しかしながらまだ話は始まっても居ない。
全てはここからだ。
宇髄は気持ちを落ち着けるために不死川が煎れたお茶を一口すすると、湯呑を置いて煉獄に視線を向けた。
「率直に聞くけどな。
お前…もしくはお前達は俺らと冨岡が接触を持たねえように立ちまわっていたりしているか?
俺の気のせいならすまねえが、あまりにタイミングが良すぎてな。
でもって…そうなら理由はなんだ?
俺はお前に何かしちまったか?」
ここに来るまでどう切り出そうか随分と悩んだのだが、はっきりした答えが欲しいなら遠回しに言っても仕方ない。
そもそもが人柄がよく裏表のない人物だと評判の男だ。
こちらが腹を割って誠意のある話し方をすれば無下にはしないのではないだろうか…。
そんな希望的観測に賭けるしかない。
そう思ってかなり正直に切り出すと、世間の評判を裏切ることなく、煉獄の方もかなり正直に返してくれたようだ。
「うむ!他意があるかないかと言われれば俺にはある!
俺は宇髄とというより、不死川を冨岡と接触させないようにはしていたなっ!」
とその言葉は内容的には宇髄も予想はしていたのだが、こんなにはっきりと口に出されるとは思わなくて唖然としてしまった。
「…な…なんで……」
と、こちらは全く予想していなかったらしく、そうつぶやいたまま固まる不死川。
「…正義感…ってやつか?」
と、驚きながらもなんとか話を進めて軌道修正出来れば…と、脳内で言い訳を考えながら先を進める宇髄だが、煉獄はそれにも思いもしなかった言葉を返して来る。
「いや、私怨だなっ!!」
「私怨っ?!!!」
驚きのあまり、さすがの宇髄も頭の中が真っ白になって次の言葉が出てこない。
だが、煉獄の方はそんなこちら側を気にする様子もなく、話を続けた。
「俺は昔、大切な弟がいじめにあって以来、落ち度のない相手に一方的な暴力や暴言を向ける輩が大嫌いでなっ!
弟の時はそれで学校も動かなかったため、もう弟を守るためなら自身が捕まっても構わないからと、相手を物理で二度と学校に来られないようにするために竹刀を持って殴りこもうとしたことがあるっ!
そこで竹刀を担いでいるところを錆兎に目撃されてなっ!
弟と加害者の間では弟が被害者だが、そこで弟自身ではない俺が加害者に暴力を振るったら、それはただの私怨で俺が一方的な加害者になる。
どうせやるなら法治国家に相応しい正しいやり方で相手を社会的に抹殺するにとどめておけと言われたっ!
まあ…その時は言い出しっぺの錆兎が特別に色々手を回してくれて、診断書や弁護士を揃えて教育委員会も巻き込んで、相手は少年院送致になったんだがなっ!
ということで、今回は暴力暴言の被害者は冨岡であって、飽くまで俺ではなく、法に触れるわけではないが法的根拠もなく行動しているので、私怨だと思っているっ」
「うあ………ちなみにその時お前らいくつよ?」
「ふむ…確か…俺は高校に入ったばかりの頃だなっ!」
「…まじか……」
怖え…脳筋コンビ。
いじめにいきなり物理で半殺しにしようとする煉獄も怖ければ、高校生の分際で診断書取らせて弁護士や教育委員会に手を回す鱗滝もマジ怖え…
と、なんのことはないように語る煉獄のエピソードに宇髄は青ざめた。
「…ということで、俺は社内でたまたま冨岡に一方的に暴力を振るう不死川の行動を見かけて、その時に介入しようとしたのだが、錆兎に暴力に訴えて俺自身が裁かれる立場になるのは宜しくないと止められた。
だが見過ごすという選択肢はなかったし、その時は止まったとしても最終的に俺が止まるとは思っていなかった錆兎は俺が暴走しないように平和的解決を目指したというわけだ」
なるほど、色々が納得だ。
脳筋コンビと同列に語られているのだが、実は彼らの中では考えるのは錆兎の方の役割らしい。
これは交渉するなら鱗滝の方だな…と宇髄は話を切り上げようと思ったが、不死川は目の前の相手しか見えていないようだ。
「…嫌がらせとかのつもりじゃねえんだ。
実は…俺は冨岡のことがずっと好きだった。
でもなんつ~か…気恥ずかしくてつい乱暴な態度になっちまって…
でもっ!でも、反省してっし、謝りてえってずっと思ってんだっ!
今回はもう絶対に殴ったり暴言を吐いたりはしねえっ!
だからあいつと近づくのを邪魔すんのをやめてくれねえか?」
と、煉獄に頭を下げた。
素直になるのが苦手な不死川からすると、かなり葛藤があったのだろうが、それだけ本気なのだろうと宇髄は思う。
だが煉獄から出てきた言葉は
「不死川、君は弟や妹がいるか?!」
だった。
いきなりのその言葉に不死川は不思議そうにしながらも
「…ああ、俺は7人兄弟の長男だからな。
妹も弟も3人ずついる」
と答える。
「弟や妹は可愛いか?」
「ああ、可愛いな。めちゃくちゃ可愛い」
「では聞く。
その妹や弟が暴力暴言を振るわれて、相手が近づくだけでひどく怯えるくらいにトラウマになってしまった男が『すまなかった』と言ったからと言って、信用できるか?許せるか?」
…あ~…それ聞いちゃうかぁ…と、宇髄は内心ため息をついた。
不死川もそれでようやく想像がついたのだろう。
それに
「…いや…信用できねえし、許せねえ…」
と首を横に振った。
だが小学生時代から今まで十数年も抱えてきた想いをそれで捨て去ることもまた出来ないのだろう。
「でもっ!でも、反省して謝ったら関係が変わることだってあるだろうがァ!」
とそれでもそう言い募るが、煉獄はきっぱり
「いや、ないな」
と首を横に振る。
「じゃあ、一度間違いを犯した人間は一生それを許されずに引きずっていけっつ~のかよっ!」
と飽くまで納得できない不死川に、煉獄はそれまで気のいい明るい脳筋コンビと言われている男とは思えないほどに冷ややかな声音で
「俺はそう思う。
いじめの加害者は死ぬまで日の当たる所に出るなと俺は真剣に思っているぞ」
と言い放った。
面白かったです!
返信削除煉󠄁獄さん、めっちゃカッコ良かった…
更新ありがとうございました!
煉獄さんは炭治郎の柱合会議の時もそうでしたが、正義感が強くて悪を許さない感じですよね😊
削除煉獄さん最高です!最後の台詞には首が痛くなるくらい同意します!
返信削除煉獄さんは毅然とした正義の人っていう感じですよねっ😁
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