捕獲作戦_進行_まるでドラマのような

社員旅行…それを題材にしたドラマとかはたまに見かけるが、自分がその主人公になるなんて思ってもみなかった。
でも今回の社員旅行は義勇にとってはすごいドラマ以外の何ものでもない。

最初は憂鬱だった。
それが会社でも有数の人気者の錆兎と同室になったあたりで空気が変わる。
いつもいつも義勇を追いかけてきて嫌がらせをする不死川と義勇が顔を合わせないでいいように、さりげなく義勇を外に連れ出してくれる錆兎。

その連れ出してくれる先も、地元の美味しい割烹だったり、ゆったりできる日帰り温泉だったりして、義勇が緊張せずリラックスできる場所ばかりだった。

それだけでもまるで夢のように楽しく幸せだったのに、なんと義勇が好きで義勇の特別になりたい、義勇とずっと一緒に居たいなんて嘘みたいなことを言ってくれたのだ。

義勇自身はわからないが、義勇は少し綺麗めな顔をしているらしく、たまにその見た目が良いと寄ってくる奇特な人間もいなくはなかったが、そんな稀な人間ですらすぐ、鈍くさくて人とうまく話すことのできない義勇の性格に嫌気がさして離れて行ってしまっていたのに、錆兎はその義勇の性格が好きだと言ってくれたのである。

嫁に行ってしまった姉さん以外誰もそんなことを言ってくれる人間はいなかった。
義勇を性格も含めて肯定してくれた二人目の人物がこんなすごい人間なんて本当にドラマ以外にありえない。
なのにこれが現実に起こったのだ。
もちろんそんな風に差し伸べられた手を義勇が取らないなんて選択肢はあるはずがない。
なんだかよくわからないが、こうして義勇は世界で最高の恋人を手に入れたのである。

本来はもう少し洒落たところで話すものなんだろうに、こんな地元民の集う公衆浴場ですまないと錆兎は言ってくれたが、義勇はそこののんびりした空気がとても居心地よくて好きだったし、なにより錆兎が幼い頃からよく来ていたかつて知ったるお気に入りの場所だということだから、それ以上の場所はない、そう思ってそう言ったなら、錆兎が嬉しそうに笑ってくれたので、義勇も嬉しくなって笑った。

こんな風に心から笑ったのはどのくらいぶりだろう。

錆兎と居ると義勇はいつでもそんな風に笑える気がするし、錆兎も義勇といるとそうだと言ってくれて、相手は本当はすごい人間なのかもしれないが、普通に見たら義勇なんかと釣り合わない相手なのかもしれないが、二人は何より似合いなのだと義勇はなんだか信じられる気がした。


会社案内や会社のサイトにも社員の見本としてデカデカとそのキラキラしい様子が掲載されている錆兎は、しかし今はドデカイパフェを前に子どものように笑っている。

日帰り温泉でそばを食べた後にそのままICの傍のステーションパークまで出て入った喫茶店。
みたところ特に何の変哲もない店で、ああ、不死川避けに極々普通の店に入ったのかなと思ったのだが、甘かった。

そこの飲み物はとにかくデカい。
クリームソーダパフェを取るから飲み物は熱いものにすると良いと言われて、この暑いのに?と思いつつも普通にコーヒーを頼むと、出てきたコーヒーはジョッキくらいの大きさに入っていて驚いたのだが、さらに義勇が驚いたのは、錆兎がコーヒーとは別に頼んだクリームソーダパフェの大きさだ。

デカい。
ものすごくデカい。
とうてい一人で食べられる量ではない。

「ここな、パフェも含めて冷たい飲み物はデカい。
器はグラスじゃなくて花瓶だからな」

そのあまりの大きさに目と口をぽか~んと開いたまま固まる義勇にいたずらっぽい笑みを浮かべて錆兎が説明した。

そう言われて周りを見れば、あたりの席の客が飲んでいる冷たい飲み物が入っている器はデカイ花瓶である。

「ここには子どもの頃から杏寿郎と一緒に連れて来てもらってたんだ。
もう、子どもの夢が詰まっている感じだろう?」
と笑う錆兎がなんだか可愛い。

「その頃の錆兎と会って見たかったな」
と思わず言うと、錆兎は手にしたスプーンですくったアイスを義勇の口に運んでくれながら
「気が合うな。
俺も小学校時代の義勇と一緒に居たかったと思ってた」
と、笑顔で返してくれた。


楽しかった。
本当に楽しい一日だった。

温泉後に食事、食後に場所を移動してお茶をして、その後は
「今日はさすがに暑いからなぁ…。
でもあそこに足湯があって、肌寒いくらいの日にくると気持ちいいんだ。
隣の間欠泉センターでは温泉で茹でた卵が売ってるし、道路渡ってすぐのところにはタケヤ味噌があって、みそ汁が飲める。
今度もう少し涼しい時期に一緒に来よう」
と、そんな話をしながら諏訪湖をぐるりとドライブ。

そして昨日よりはだいぶ早めに帰路に着く。

「今日こそは旅館の美味い飯を食わないとな」
と部屋につくなり浴衣に着替える錆兎。

戻ったのは16時過ぎで、18時までにはだいぶ間があるからてっきり押しかけてくるとばかりに思っていた不死川が来ないのを不思議に思っている義勇に
「ああ、宇髄と不死川はたぶん今頃杏寿郎と話をしているからこちらには来ないぞ?
それでも気になるなら土産を持って村田の部屋に行くか~」
と、途中で買った菓子を掲げて、義勇に手を差し伸べて来た。










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