──俺に他意があることは少なくとも宇髄にはバレたな
と、杏寿郎からのメッセ。
──夕方に戻って宇髄と話をすることになった。
──そうか。
──君に関しては他意がないとは伝えておく。
──…嘘はダメだろ。
──嘘ではないっ。君は俺が暴走するのを避けたいだけで彼らに他意はないだろう?
──……多少は出来た気はするが…
──それは聞かなかったことにするっ。もし彼らが君にも話をとなった時に自分で伝えろ。
──了解。
まあすべては計画通りに進んでいるようだ。
錆兎は温泉で火照った体を扇風機で冷やしながら杏寿郎とのメッセのやりとりを終了すると、すでにゴロンと寝転がって眠っている義勇の横に寝転がった。
いま錆兎が居るのは山の中腹にある日帰り温泉だ。
とはいっても来るのは観光客というよりは地元民で、温泉地だから温泉なわけなのだが、そうでなければ普通に銭湯のような感じの場所で、食事も取れる低いテーブルが並んだそのエリアでは、床暖房がきいた床に地元民がゴロンと寝ころんで寛いでいる。
錆兎も義勇を連れてここにきて、まず温泉に入り、それから朝から慌ただしかったのもあって、ここで一休みしているというわけだ。
元々湿気が少なく涼しい場所なので扇風機の風だけで十分心地よく、わずかに温かい床暖房の上に寝転ぶと自然に眠気が襲ってくる。
錆兎が杏寿郎とメッセのやりとりをしているわずかな間に、義勇はすでに熟睡中だ。
色々緊張することも多くて疲れていたのだろう。
それでも少しは緊張をほぐすことも出来たのだろうか。
すやすやと眠っている寝顔は穏やかであどけない。
そんなどこか幼げな様子はなんだかよく祖父に連れられてここで杏寿郎と共に昼寝をしていた小学生の頃を思い出した。
義勇はその頃から不死川と一緒で暴言暴力に悩んでいたと言うが、どうせならその頃に一緒に居てやりたかった。
いまも可愛いが、男女の性差もまだあまりない幼い頃の義勇はきっとものすごく愛らしかっただろう。
それに暴言を吐いたり暴力を振るったりできる神経が錆兎にはわからない。
むしろ小学生の頃の自分がその場に居たら、まだ未熟で自制心もきかなかっただろうし、不死川を殴り倒していたかもしれない。
そうしたら昨日本人が言っていた通り、義勇のヒーローになれただろうか…。
そんなことを思いながら無意識にそっとその頭を撫でると、こちらも寝ぼけて無意識なのだろう。
錆兎の手にすりりと擦り寄るようにしてふにゃりと笑った。
うああぁ~~可愛いな。
と思わず凝視すると、ぱちりと開く目。
寝起きのぼんやりした青い目が錆兎に向けられ、しばらくしてハッとしたように見開かれる。
「ご、ごめんっ!寝ちゃってたっ!!」
と慌てて起き上がろうとする義勇を制してその肩を笑ってポンポンと叩く錆兎。
「別にいい。
休憩のためにここに来たんだから、ゆっくりしよう。
ここなら不死川達にも絶対にみつからないしな」
と言ってやると、義勇は
「確かにっ」
と嬉しそうに笑う。
ああ、やっぱり怯えて不安げにしているよりも笑顔の方が可愛いな…と、その表情を引き出せたことに錆兎が満足感を感じていると、義勇はさらに
「ここ…なんだかのんびりして良いな。
俺は人見知りで他の人がいると寛げないんだけど、錆兎はすごく人づきあいが上手いだろうな。
錆兎といても緊張しないしホッとする」
などと嬉しいことを言ってくれた。
「それは俺の方だ」
と、そこで錆兎は自覚するとほぼ同時に思いを言葉に乗せる。
「俺は仕事で便宜上他者と適度には付き合うが、実はあまり社交的な方じゃない」
「…え??」
「正直、気の置けない関係と言えるのは幼馴染の杏寿郎と村田…あと社会人になってからの知人だと新入社員の炭治郎という後輩くらいだしな。
他の皆とは平等に付き合うが、平等に踏み込まない主義だ。
でも義勇と居ると楽しいしとても心が安らぐ。
これからもずっと一緒に居てくれると嬉しい」
そこまで言うと、義勇の真っ白な顔が朱に染まった。
ああ、これはイケる。
このまま押し切ってしまえ。
本来の目的は杏寿郎の暴走を抑えるためだった。
だが今錆兎ははっきりと自分の中で違う目的が生まれるのを感じていた。
更新ありがとうございます!!
返信削除さらにワクワクな展開に、ドキドキ😍が止まりません!
こちらこそ、読んで頂いてありがとうございます😊
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