「わかったっ!ここだろ、ここっ!諏訪湖畔にある蕎麦屋!」
宇髄がとりあえず街の方へ向かうべくハンドルを握っている中、ひたすらにスマホで検索していた不死川は『諏訪湖付近の美味しい蕎麦屋20選』を検索して、それらしき蕎麦屋を見つけると、宇髄にスマホの画面を突きつけた。
場所と名前言え」
と呆れたように言われてハッとして、正確な場所と店名を告げると、
「お~けぃ、とりあえず行ってみるぞ」
と、宇髄はアクセルを踏みしめる。
そうして1時間半。
「店開くの何時だよ?」
と聞く宇髄に
「…11時」
と答える不死川。
「あと30分か…」
と時間を確認し、宇髄は
「一応時間潰しに諏訪湖回るが、鱗滝の車がいねえかチェックだけしとけ」
と、そのままぐるりと諏訪湖を回ることにした。
そうして少し時間を潰して11時を少し回ったあたりで蕎麦屋の駐車場を見れば、そこには見覚えのある青い小型車。
──よっしゃぁ~!!
とガッツポーズをする不死川に、宇髄は
「単に合流出来るだけだからな?
他もいるんだから距離を縮めるのは至難の業だってことを忘れんなよ?」
と苦笑しつつ釘を刺す。
自分も極力フォローをいれるが、なかなかうまく進まなくても絶対に自棄になるなと、そこはこれで失敗したらもうチャンスはないに等しいのだからと念押しすると
──そうだよな…
と、不死川も神妙な顔になった。
その後、宇髄も店の駐車場に車を停めて、不死川と連れ立って店に入る。
平日で、しかも開店直後なだけあって店はまだ空いていて、そこに
──美味いっ!美味いっ!!
という声が響いていた。
必然的に宇髄達の視線はそちらへ…そして固まる。
「ああっ!君たちもここに来たのかっ!!
座ったらどうだっ!一緒に食べようっ!!」
と、そこには取り皿に芋天をやまもりにした煉獄と、てんぷらを1つずつ数種類盛ってそばを待つ村田の姿があった。
え?と思う間もなく、店の人間に促されて、二人と同じテーブルにつくことになった宇髄と不死川。
トイレ…か?二人で?と、トイレの方をちらちら見る不死川だが、宇髄は茶が2つしかないことで、ここにいるのは煉獄と村田だけなのだと悟った。
そして聞く。
「なあ、お前、今日は鱗滝と出かけるんじゃなかったのか?
なんで村田と二人なんだ?」
と、その言葉に村田は何か思うところがあったのか、ハッとしたようにわずかに煉獄に視線を送った。
ほんのわずかな反応で不死川はそれに気づいていないが、宇髄はそれで、もしかしなくても今回の諸々は脳筋コンビが他意があって行っていたことだと悟る。
煉獄の方はと言うと、いったん箸を止め、口の中の芋天を飲み込むと、
「いや?!俺は錆兎の車で出かけると言ったが、錆兎と出かけるとは言ってないぞ?!」
とにこやかに言い放った。
それに目を丸くする不死川。
宇髄が確認するように視線を向けると
「あ、ああ、確かにそう言ったがァ…普通は、あいつの車でって言えば、一緒だと思うだろうがっ!」
と、それを認めた。
(…おいおい、正確なところを伝えてくれよ…)
とその返答に内心大きなため息をつく宇髄。
もし正確な言葉が伝わっていたとしたら、宇髄だってその可能性は考えて、むしろ一緒に錆兎の車に乗り込んだところだった。
しかし過ぎたことを言っても仕方がない。
「で?飯食ったら鱗滝を迎えに行くんだろ?
あいつらはどこにいるんだ?」
と、もう極力さっさとそばを食ったらまた煉獄に連れて行かれる前に駆け付けようと思って聞いたのだが、煉獄はきっぱり
「いや?迎えにはいかないし、知らん」
と言う。
「へ?じゃああいつら帰れねえだろ」
と、その言葉に焦る宇髄。
いくらなんでも二人ですでに東京に帰ったなんてことはさすがにないだろうと思ったのだが、やはりそれはなかった。
「大丈夫だっ!
錆兎は彼の爺さんの車を借りているからっ!
今日錆兎の車で一緒に出たのは、別行動をするのに足がないため、彼の祖父の家に車を借りに行くためだったんだ。
だから今日は借りてて、明日、帰りに一緒に爺さんの家に行って車を返して、一緒に錆兎の車で帰る予定だ」
と、煉獄はそう詳細を説明した。
「…一緒に行動しなかった理由は?」
宇髄ももうそれは踏み込み過ぎだとは思うものの、背に腹は代えられないとばかりに聞く。
煉獄はそれを気にする様子もなく
「うむ!俺と錆兎は同じ人間ではないからなっ!
やりたいことが違うこともあるっ。
ちなみに俺は今日は美味い物巡りをしたかったのだが、錆兎は食ってばかりは嫌だと却下したので、村田を誘うことにしたんだっ」
と説明。
「…じゃ、鱗滝は冨岡とどこかに行ってるってことか?」
「そういうことになるなっ!」
「…どこに?」
「知らんっ!」
と、そこまで話した時に煉獄達が頼んでいた蕎麦が来たので、もういいだろうっ?と話を打ち切られてしまった。
まあこれ以上話してもスルーされるのは目に見えているので、宇髄もそちらから情報を得るのは諦めて、錆兎の方に電話をすべく離席する。
そうして電話をかけてみるが、案の定、電波の届かない場所に居るか電源が入っていないとのメッセージ。
それにため息をつきつつ戻って杏寿郎に聞くと、
「うむっ!繋がらない理由は後者だなっ!
俺がしつこく食い歩きに誘ったから、もう電源を切ると言っていたからっ。
おそらく冨岡の方にもそうさせていると思うぞっ!」
と返って来て、さすがの宇髄も今日の夕食まではどうにもできないことを悟った。
いや…この状況だと夕食時もまた邪魔をされるのか?
何故?
脳筋コンビは何故そこまで自分達の邪魔をするんだろうか…
まずそちらを聞いて、誤解があるなら誤解を解いて、協力…まではいかなくとも妨害をしているならやめてくれるように依頼するのが先なんじゃないだろうか…。
と、宇髄はようやくそこに行きついて、
「煉獄…悪いが少し話がしてえ。
今日も夕飯は18時なんだが、16時くらいには宿に戻って話をさせてもらえねえか?」
とダメもとで聞いてみると、煉獄はスマホを出してスケジュールを確認。
「うむっ!これから店を出て行きたい店を一通り巡って…買って帰れるものは買って帰って宿で食うから、あるいは少し遅れるかもしれんが構わんぞ!」
と言う。
食べ歩きをする…というのはどうやら本当だったようだ。
話し合いのために少しばかり店を巡る順番を変えてくれるらしく、村田とそのあたりの相談を始める。
それに露骨に不満げな顔の不死川に、
「…急がば回れだ!苛ついても仕方ねえだろ」
と注意を促すと、宇髄も注文した蕎麦をすすり始めた。
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