──こらえろっ、実弥っ!!
その日の朝食の時間のストレスはすごかった。
なにしろそれまではボッチだからと安心していた想い人が、思いがけず社内でも有数の人気者の男と同室になって、その友人達に囲まれて楽し気にしているのである。
不死川の記憶にある義勇はいつもスン…と澄ましているか、怯えているか、泣き顔である。
本当は自分の前でああやって楽し気に笑っていて欲しかった。
この社員旅行でそういう関係を築くべく距離を縮めるはずだったのに、邪魔が入りまくってこの体たらくだ。
このままでは彼らに義勇を取られるんじゃないだろうか…そんな風に焦って思わず近づこうとする不死川を止める宇髄。
ああ、わかっている。
いま問題を起こしたら、彼ら、脳筋コンビが連れ立って出かけていなくなるという千載一遇のチャンスがつぶれてしまう。
だから不死川は最大の忍耐を持って、苛つきを抑えながら義勇を横目で見るのみにとどめたのであった。
そうして前回の夕食に続いてイライラしすぎてロクに味わうこともできなかった朝食を済ませて戻った客室。
そこでは不死川の今回のストレスの大元が上機嫌で私服に着替えていた。
「楽しそうだなァ、おい」
と声をかけると、いつもの笑顔でくるりと振り返った煉獄は
「うむっ!非常に楽しくも有意義な一日になる予定だっ!
なんだ?君も一緒に行きたくなったか?」
と、圧のある目で問いかけてくるが、そこは全力でお断りする。
「俺も滅多にこっちに来るこたぁねえから、宇髄と楽しく観光だァ」
と言うと、肯定されたらされたで拒絶はしない社交辞令という程度のものだったのだろう。
「そうかっ!お互い楽しい時間を過ごせるといいなっ!」
とあっさりと引き下がってくれてホッとした。
煉獄達は外に行く予定で着替えているのだが、不死川はとりあえずは彼が外出したら即義勇の部屋なので、旅館の浴衣のままである。
その後は…宇髄も交えて部屋で話をして、関係が良くなったなら一緒にゆっくり風呂でも入るか…などと考えながら、煉獄が着替えて出て行くのを待った。
「うむっ!これでいいなっ!
それでは行ってくるっ!!」
と、しっかりと着替え終わったらしくそう言って部屋を出る煉獄を見送って、念のため5分ほど待機。
その後、不死川は一緒に来てもらうため、宇髄の部屋を訪ねて行った。
──…行ったか?
と、ノックした不死川にドアを開けるなり確認する宇髄。
それに
──ああ。出て行ったあと念のため5分待機して、今、だ。
と不死川が答えると、
──じゃ、ちと鱗滝の方の車をチェックして駐車場になければ冨岡の部屋にGO!だな
と、そのあたりは煉獄が出てもまだ錆兎が部屋にいる可能性も考慮して、宇髄がいう。
そして二人で連れ立って駐車場の見える窓に。
そこから覗くと確かに錆兎の青い小型車が消えていた。
──よしっ!大丈夫だっ!
と、小さく安堵のため息をつくと、
──まず俺が声かけて誘い出すから
と、宇髄が申し出る。
確かにいきなり不死川が行ったなら部屋に籠城しつつ錆兎に電話をするくらいはされるかもしれない。
非常に不本意だが、そのくらい避けられている自覚はあるので、不死川も
──悪い、頼むわ
と頭をさげた。
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