──おはよう、義勇。いい朝だぞっ
社員旅行2日目の朝。
そう声をかけてくるのは朝の日の光を背にしたイケメンで、目を覚まして最初に見るものがこんなに素晴らしい光景であるということは確かに良い朝だ、と、義勇は思った。
そのあとはまた不死川に粘着されるかと警戒したが、自室についてすぐ錆兎がせっかくだから部屋についている露天に入ってきたらどうだと勧めてくれたので入ったら、義勇達が戻ったことを知って訪ねて来た宇髄と不死川の対応は、その間に錆兎が巧くやってくれたらしい。
義勇が風呂から上がった時にはもう二人ともいなかった。
ということで就寝まで大変平和に心地よく過ごし、極上の睡眠のあとに最高の朝を迎えたわけなのだが……
はあぁぁ…と義勇はため息をつく。
ここまでは確かに不死川に怒鳴られることも殴られることもなく、非常に楽しい社員旅行だったわけなのだが、これから朝食の時間だ。
なまじ昨日一日接触ができなかったのもあって、いつもいつも義勇への嫌がらせに情熱を傾けている不死川は絶対に絡んでくる。
殴られる…のはおそらく錆兎が防いでくれるだろうが、怒鳴られるのはもうどうしようもない。
物理で痛くないだけいつもよりはマシかもしれないが、怒鳴られるのだって平気なわけではないのだ。
耳と心が痛む。
嫌だなぁ…と、せっかくの極上の朝なのに翳る気持ちに肩を落とす義勇を見て、錆兎が
「どうした?何か困ったことでも?」
と聞いてくれる。
ああ本当に昨日同室になってからずっと守られているなぁ…と思った。
もし同室だったのが錆兎じゃなかったら…いや、人気者の脳筋コンビと呼ばれる杏寿郎と錆兎が部屋割りをくじにしようと言い出してくれなかったら、義勇は今頃不死川と同室にされて、散々な目に遭っていただろう。
ありがたい…本当にありがたい。
──錆兎って…まるで勇者みたいだなぁ…
と、助けて欲しい時に即助けてくれる姿にそんなことを思って、それをついつい口にすると、錆兎は一瞬目を丸くして固まって、次にふわりと笑った。
「なんだか光栄なことを言われているなっ。
そう言えば幼い頃は世界を救う勇者になりたいと思ってたんだ。
さすがに今は俺一人に出来ることなんてたかだか知れているとわかってしまったが…
それでも義勇1人を物理的に助けることくらいは出来ると思うぞ?
何かあるならなんでも言ってくれ」
と、そんなことを言うのだが、それは謙遜だ。
錆兎ならきっと世界を救えるに違いない!
と、義勇は強く思ったが、とりあえず今は世界よりも自分を救ってくれると嬉しい。
なので、義勇は朝食時にまた不死川に怒鳴りつけてこられるであろうことが憂鬱なのだと素直に打ち明けると、錆兎は、なんだそんなことかっ、と、軽い調子で言う。
そして義勇が寝巻代わりに来ていた旅館の浴衣の着崩れを当たり前に直してくれたあと、
「大丈夫っ!手は打ってあるからとりあえず朝食時には近寄ってこないと思うぞ。
まあ来たら来たで俺と杏寿郎でなんとかするから安心しろ」
と、請け負ってくれた。
え?え?そんなことが出来るのか?
殴るのはとにかくとして、近づくことを阻止なんていくら無敵の脳筋コンビでも可能なのだろうか…
そう不思議に思うわけなのだが、錆兎が出来ると言えば本当に出来る気がしてくる。
そう、錆兎が隣に居てくれたなら、朝食もきっと平和で楽しい物になるに違いない。
義勇は根拠はないがそんな気がして、ずいぶんと気が楽になった。
そうして7時半、朝食の時間ということで錆兎と連れ立って軽い足取りで朝食の場である広間へと向かったのだった。
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