「不死川っ、すまんっ!実は明日は錆兎の車で出かける約束をしているっ!
君を一人にしてしまうことになるっ」
接近計画が流れてがっくりするあまり、豪華な食事もなんだか味がせず、力なく部屋に帰った不死川を迎えたのは、そんなこれまでの巡り合わせの悪さを一掃するような煉獄の言葉だった。
いきなり謝られたものの、自分に付きまとう煉獄どころか、義勇と同室の錆兎まで居ないと思えば、もうすまないどころか、むしろありがとう!と頭を下げたいくらいだ。
本当にこんな都合の良い事が起こって良いのだろうか…。
と、あまりに突然に訪れた幸運に不死川が反応できずにいると、煉獄はそれを違う方向に勘違いしたようだ。
「ああ、だが車は5人までは乗れるし君も一緒に出掛けるかっ?
俺達はそれでもいいんだがっ!!」
と相変わらずどでかい声で聞いてきた。
いやいやいやいや、そんな千載一遇のチャンスをどぶに捨てるようなことをしたいわけがない。
不死川は
「いや、俺も宇髄と出かけてえと思ってたからちょうど良かったわっ」
とブルンブルンと首を横に振った。
そしてちょっと出てくる…と廊下に出て宇髄に電話でその旨を告げる。
『ほぉ~、そいつぁ渡りに舟だわな。
ようやくお前にも運が向いてきたか』
と、電話の向こうで喜んでくれる宇髄。
そしてその思いがけず訪れたチャンスを生かすべく、二人で明日の予定を考え始める。
本当ならば今日の夕飯時に話が出来なかったので明日の朝食時に接触を持とうと言う計画だったのだが、こうなると逆に脳筋コンビが出かけるまでは刺激をして予定を変更させるような行動を極力控えて、彼らが出かけた後ゆっくりと義勇を捕まえた方が確実だろう。
と言うのは二人の総意だ。
だがそこで意見が分かれる。
『一応俺が脳筋コンビと行動を共にして戻ってこないように見張った方がいいか?』
と宇髄は言ってくれたのだが、不死川はそれを否定した。
「いや…俺だけじゃ冨岡に逃げられる気がするしなァ。
捕まえるまではお前も一緒にいてくれねえか?
お前が居れば話くれえは聞いてくれんだろォ」
との不死川の言葉に、確かに不死川から逃げた義勇が錆兎に助けの電話でもしても面倒だし、関係が良くなるまでは自分も一緒に居た方がいいのか…と、宇髄も思い直した。
まあ…あとは、それこそこの機会を逃せば来年までは機会が持てないのもあって、万が一不死川が失言をした時のフォローも必要だろう、と、そんな気持ちもある。
『じゃあ明日は朝食時は大人しく煉獄と食って、冨岡との接触は脳筋コンビがでかけたあとな?』
と最終的にそう決めて、その日は二人は通話を終えて、不死川も大人しく自室へと戻っていった。
明日…何が起こるかは宇髄も不死川も想像だにしていない。
ただ一つ言えるのは、この社員旅行の中でこの日の夜が一番幸せで穏やかな気持ちで居られたということだ。
そう、幸せな夜の翌日に絶望が待っていると言うことは、不死川は全く想像だにしていなかったのである。
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