なんとか煉獄を巻いて錆兎と義勇の部屋に辿り着けばもぬけの殻。
電話をしてみれば錆兎の忘れ物を取りに街に戻っているということで、おそらく行き帰りで3時間ほどは戻ってこれないだろう。
「まあ…飯どきが一番フォローいれる機会があるんじゃねえか?
あいつ飯食うの下手だし」
と、いつも口に何かしらをつけて食べる義勇の姿を思い出して言えば、
「あ~、そうだなァ。口元拭いてやったり、色々手伝えることも多いよなァ」
となんとか立ち直る旧友に、宇髄もホッとして、それまでは宇髄の部屋でゆっくり作戦を練ろうと言うことになった。
「お前…いつもみたいに食い方が汚ねえとか怒鳴んなよ?」
と、もうこれを逃したらなかなかチャンスなど作れないので念押しをすると、そのあたりはさすがに不死川も思ったのだろう。
「わぁってる!今回ばかりは気を付けるわ」
と、ガシガシ頭を掻きながらも、素直にその忠告を受け入れる。
とりあえず夕食時の二人の作戦は変わらない。
同室なので一緒に来るであろう錆兎の方は、宇髄が話をしてみたいからと声をかけて極力引き受ける。
もし…煉獄も来てしまったら、それも宇髄がひたすらに頑張る。
「本当に頼むぜ?俺だってさすがに二人を引き付けておくのは楽じゃねえんだからな?」
と、錆兎はとにかくとして煉獄を不死川の方にやらないというミッションはなかなか難易度が高いこともあって、宇髄は大きく息を吐きだした。
そんなこんなで3時間弱。
幸いにして煉獄は最初に宇髄の部屋を訪ねて以来こちらに来ることはなく、あるいは他の友人達と交流を深めているのかもしれないと廊下に出てそれとなく通りすがりの同僚に聞いてみると、
「あ~、村田のとこじゃね?
錆兎と杏寿郎が学生時代に剣道部だった時のマネージャーらしいから、今でも仲いいぜ?」
と返ってきて、ホッとする。
いいぞ、そのまま煉獄を夕食が終わるまで引き留めておいてくれ!と宇髄は内心村田にエールを送りつつ、あとは片割れの方を引き離すだけとばかりに、自室に戻って錆兎を長時間引き付けておくための話題を考えていた。
そうしてややホッとしつつ夕食の時間を待った宇髄だが、16時半すぎ…錆兎からとんでもない連絡が入って唖然とすることになる。
『すまん!渋滞にひっかかって夕食までに帰れそうにない。
さすがに飯抜きは辛いんで、義勇と二人、飯を食ってから帰るから他にはそう伝えておいてくれ。
俺の分は…杏寿郎に言えば喜んで食うと思う』
は?はあぁぁ??!!!
…である。
「いやいやお前、それはないだろ。
残しておいてやるから戻って来いよ」
錆兎はともかく、義勇が夕食時に居なければ計画が台無しだ。
宇髄もそこは必死に言う。
というか…あまりに脳筋コンビが計画の邪魔すぎて、あるいはわざとなのか?!とちらりと脳内で疑ってみたのだが、電話の向こうで
『家族で行ったことあるんだが、そこの飯美味いんだよなぁ…。
食いたいのは山々なんだが、二人分だけあとでとなると、それでなくとも貸し切りということで色々融通をきかせてくれている宿の人に迷惑をかける。
明日もあるし今日は涙をのんで諦めるから、俺達の事は気にしないで美味しく頂いてくれ』
と、本当に残念そうに言われたので、気のせいか…と思い直した。
考えすぎだ。
そもそも宇髄の邪魔をしたいと思うほど、脳筋コンビは宇髄の事も不死川の事も義勇の事も知らないのだ。
単にタイミングが悪かったというやつだろう。
それでも諦めきれずに
「…俺も行こうか…」
と呟いてみるものの、
『何故??そもそも幹事がいないのはよほどの理由がないとダメじゃないか?』
と当たり前の答えが返ってきた。
そんなやりとりをしている宇髄の横ではやはり唖然とする不死川。
「じゃ、じゃあ俺が迎えに行くかァ?」
と宇髄の横で口をはさむが、
『だから何故??車で来てるから帰れないわけではなく、渋滞で間に合わないだけだから、不死川が来ても何も変わらないぞ?
俺は地元民だから途中で適当に入れそうな店に入って夕飯にするが、不死川は来ても何ができるわけでもなく夕飯を食いっぱぐれるだけなんだが?』
と、心底不思議そうな声が返ってきた。
まあ普通に考えればそうだ。
「いや、だから…お前らが行く店に合流するから…」
と、それでも食い下がる不死川だが、
『不死川、今宿だよな?足はあるのか?
あったとしても降りてくるだけで1時間半だろう?
俺達は別に高級料亭に行くわけじゃないから普通の飯屋でそこまで時間はつぶせないし、それだけ待ってから飯にすると、さすがに宿につくのがとんでもない時間になってしまうんだが??
何か混乱していないか?お前が俺達に合流する意味は何もないと思うぞ?』
と、本当に戸惑ったような返事が返って来て、宇髄は
「とりあえず今はやめとけ」
と、不死川を止めた。
「わかった。とりあえず他には言っておくし、渋滞は不可抗力だと思うんだが、明日はあまりにイレギュラーな行動は控えてくれ。
他に対する手前もあるから」
で通話を打ち切った。
そこで
「宇髄っ!」
と不死川から非難の目が向けられるが、宇髄にだってどうしようもない。
「戻ってこれねえもんはどうしようもねえし、お前が行ったって行き違いになるだけだろ。
今日はしかたねえ。
全ては明日だ、明日」
との言葉に、さすがに不死川もそれは理解したのだろう。
「あ~、本当になんでこんなタイミングが悪いんだよ!」
と苛つきながらも、その日は諦めたのだった。
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