捕獲作戦_決行_それぞれの逃亡

──宇髄、かくまえっ!!

部屋割りが決まってそれぞれ荷物を持って部屋に落ち着いたところで、宇髄は同室になった同僚が大浴場に行ってくるというのを見送って、今後について考えを巡らせていた。

そこにいきなり飛び込んでくる不死川。

まあそろそろ来る頃かとは思っていた。

悪気なく友好的なのは良いが距離を置きたいと言う相手の気持ちは汲んではくれないだろう煉獄と、今回は他者は放置で義勇との距離を詰めたい不死川。
どちらが勝つかと言うと、おそらく何も考えない勢いと善意の脳筋である煉獄だろうということは、容易に想像がつく。

同じ脳筋コンビでも錆兎の方ならもう少し言葉が通じそうな気がするのだが、煉獄相手では宇髄だってかわせる自信がない。

そこで
「とりあえず…押し入れにでも隠れとけ」
と、不死川を押し入れに押し込んで、おそらく不死川が真っ先に逃げ込む先と思われているであろう自分の元へと探しに来るであろう煉獄を待つ。

そして宇髄の予想にたがわず、それから数分も経たないうちに
──失礼するっ!不死川が来ていないだろうかっ?!
と、いきなりどでかい声がした。

いつもものすごい勢いで話し、行動しているため、てっきり勝手にドアを開けて入ってくるものだと思っていたが、何故かドアが開かない。

しかしそれでは声だけかけてどこかに行ったのかと思えば、少し間をおいて、

──宇髄っ!部屋に居ないのかっ?!
とまたどでかい声がするので、単に宇髄の方からドアを開けるのを待っているらしい。

入ってこないならそのままスルーしようか…と、対峙した時の厄介さを考えて一瞬そんなことを思った宇髄だが、このまま出るまで叫ばれても面倒だと、仕方なしにドアを開けると、相変わらず圧のある…良く言えば明るい、悪く言えば暑苦しい笑顔で煉獄が立っていた。

「あ?なんだよ?てか、勝手に入ってくるもんかと思ってたんだが」
と思わず漏らせば、煉獄は相変わらずの笑顔で
「うむ?それはダメだろうっ!
ここは俺の部屋ではなく君の部屋なのだから、勝手にドアを開けるのはマナー違反だっ」
と返して来た。

(…あ~、そう言えばこいつも良いところのボンボンだって聞いたことあるな…)
と、そんなことを思い出しながら、宇髄は

「で?実弥を探してんのか?ここには来てねえぞ?
なんなら部屋を覗いてけ」
と、少し体をずらして室内へと促そうと思ったが、意外なことに煉獄は
「そうだったかっ!騒がせて申し訳なかったっ!それでは失礼するっ!」
と、宇髄の言葉を全く疑っていないのか、そう言って去って行った。

宇髄はそれを見送ると、ドアを閉めて今度はしっかりと鍵をかけ、
「出て来てもいいぞ」
と押し入れの中の不死川に声をかける。

「…嵐のようだったな……」
と、ため息をつく宇髄。

それに
「もう人間じゃ太刀打ちできねえ自然の脅威ってやつな…」
と、押し入れから出ながら、不死川も大きくため息をついた。


こうしてとりあえず煉獄から逃亡出来たところで、今度は当初の計画通り改めて義勇に接触を持とうと宇髄と不死川は御茶を飲みながら簡単に計画を練る。

まずは障害になるのはさきほどの煉獄の相方の錆兎だろう。
彼も悪気なくフレンドリーな人間なので、不死川が義勇と話そうとしても、なんなら自分も一緒になどと言いかねない。

それでも義勇が不死川と二人で話したいのだと言えば遠慮はしてくれるだろうが、あいにく義勇の側は極力不死川と一緒に居たくないと思っているのは明らかだ。

かといって3人でとなれば不器用な上に義勇にさんざん暴力暴言を浴びせかけて避けられている不死川が社内でも有数の人気者であるあの男を押しのけて義勇の好意を勝ち取るなど、絶対に無理なのは目に見えている。

しかし部署も違うので通常業務の中で義勇と接触を持てることすらほぼないと言う現情、この社員旅行を逃したら不死川の名誉挽回の機会など持てないので、どうあってもこの旅行内で何とかしなければならない。

そうなるともう手段はただ一つだ。

「とりあえず俺が鱗滝を引き受けるわ。
奴と交流を持ちたいって言って誘いだせば、善意の脳筋だから誘い出されてくれるだろうしな」
と、宇髄が言うと、
「ほんっとに感謝するわっ!
この埋め合わせは絶対にするからっ!」
と不死川は顔の前で手を合わせた。

ということで善は急げ。
宇髄は一人錆兎と義勇の部屋を訪ねるべく、自室を出た。


………
………
………

そうしてしばらく後、錆兎は相方から送られてきたメッセに気づいて、
「悪いがちょっとコーヒーを買ってくる。待っててくれ」
と、コンビニの駐車場に車を停め、義勇を残して店に入り、杏寿郎に電話をかけた。

──俺だ。どうした?
と問えば、元々は非常に感情が表にでる相方は
──逃がした、すまん。
と目に見えてしょげかえった声で言うので、今、まさに眉尻を下げているであろう相方の様子に苦笑してしまう。

そして
──大丈夫。すでに脱出済みだ
と言うと、
──そうかっ!なら良かったっ!!
と、もうこれもぱあぁ~っと元気になったのがわかって、それにも笑いがこぼれてしまった。

こうして義勇を待たせていることもあり、早々に通話を打ち切ると、錆兎はコーヒーを二つ買って車に戻る。

そして
──待たせたな。行こう!
とその一つを義勇に渡すと、再度車のハンドルを握ったのだった。










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