正直現時点では錆兎的には義勇と不死川について杏寿郎ほどの強い気持ちはない。
今回の諸々を計画したのは、たまたま冨岡義勇と不死川実弥の人間関係を目にして、それを社員旅行と言う場で絶対に目にするであろう相方杏寿郎が暴走するのが面倒だからである。
そしてそのストッパーとして呼ばれるのはたいていは錆兎なので、面倒ごとは極力早めに準備をして対処したかった。
ただそれだけである。
幸いにして義勇と同室になれなかった不死川の不満げな様子に杏寿郎はたいそうご満悦のようなので、不死川に対して多少のあたりのきつさは出るかもしれないが、自分が介入しなければならないようなほどのことは起きないだろうと、錆兎は内心ほっとしていた。
あとは…注意を払わねばならないのは、別室になってなお不死川が絡みに来ることだ。
不死川の方は杏寿郎が極力阻止するだろうが、義勇と不死川が顔を合わせる機会を減らせたならより平和だろう。
そのためには不死川を抑えるだけではなく、義勇の方にも行動を考えてもらう必要がある。
だから出来れば義勇の方から不死川を避けたいという言質を取りたいし、その協力を依頼してもらえる程度の人間関係を築きたいところだ。
そのためにも義勇と二人きりになって話をする必要がある。
なので不死川が接触してきて揉め事が起きる前にさっさと部屋に移動しよう。
そうと決意をすると、錆兎はおそらく不死川と同室にならなかったことで安堵して気が抜けたのだろう。
その場にぼ~っと立ちすくんでいる義勇に足早に近づくと、いつも感じが良いと言われる満面の笑みを浮かべて
「冨岡、これから2日間、同室だけどよろしくなっ!」
と、親しみやすさを前面に出しつつ右手を差し出す。
それをどう思ってなのかはわからないが、え?と驚いたように目をぱちくりする義勇。
その表情が意外にあどけなくて、なんだか可愛いなと思ったのが、錆兎の義勇に対する印象だった。
そう言えば義勇本人についてそれほど意識して観察してはいなかったが、こうしてみるとなんだかおっとりとお育ちが良さそうで、なんだか家飼いの子猫のようである。
そののんびりとした雰囲気に急かすのは可哀そうだなとは思ったのだが、彼のペースに合わせていると不死川が来てしまうだろう。
そう思って、錆兎は
「なんだ、移動で疲れてたりするのか?
これ、お前の荷物だろう?一緒に部屋に行こう」
と、荷物を持っていけば動くだろうと、自分のものと共に義勇のカバンも持って部屋へと足を向ける。
義勇はそれを見て案の定、テチテチとなんだか可愛らしい足音を響かせながら追って来た。
しかしそうして着いてきていたはずの義勇の歩みが止まったことで、錆兎は行動が少しばかり遅かったことに気づいた。
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