捕獲作戦_決行_同室争奪の攻防

そんなこんなでいざ部屋割り。

杏寿郎が言った通りまだ決まっていないようで、全員が揃ったところで幹事の宇髄が
──じゃ、全員揃ったとこで、部屋は勝手に二人組作って決めてくれや
と言う。

するとものすごい勢いで義勇に駈け寄る不死川。

そして口にする言葉は
──冨岡ァ、てめえはどうせ一緒に泊まってくれる奴いねえだろっ

その時点で杏寿郎がピクリと動きかけるが、部屋割りを決めるまでは他意があるところを見せてはならないと、錆兎がその腕を掴んで止めた。

(…あと数分我慢しろ)
と小声で注意を促すと、杏寿郎は
(むぅ!そうだったっ)
と内心の怒りを外に逃がすように息を吐き出す。

錆兎と杏寿郎がそんなやりとりをしている間、義勇は同室になるなら宇髄が良いと宇髄の後ろに隠れ、当の宇髄は友人二人の間で困った顔をしていた。

そこに今が介入時、と、錆兎にポン!と背を押されて頷いた杏寿郎が、皆にそうと認知されている腹の底から出るどでかい声で、

──部屋割りは自由ではなく、くじか何かで平等に決めた方が良くないかっ?!
と言って一歩前へと進み出た。

内面は必ずしもそうではないと言うことは幼馴染でずっと一緒の錆兎は良く知っているのだが、周りの皆は杏寿郎は全く裏表もなければ深く考えることのない、善意と勢いで生きている男だと思われているので、こういう何か目的があって流れを誘導したい時には実に警戒心を抱かせないでいい。

現にこの場に居る錆兎以外の人間は皆、杏寿郎が突然の思い付きで提案していると思っているようだ。

もちろん恐らく色々な思惑で色々な方向に流れを向けたい人間が居る中で、思いつきだけで結果を誘導するのは難しいので、そこは錆兎が、飽くまでそれを聞いてという形を取って、杏寿郎の主張が建設的である理由を述べて後押しをする。

2人は仕事上もコンビを組んで動くことが多く、そのほとんどがこういう形式をとっていて、実際に実績をあげて来た。
そして今回も皆はそちらへ流されてくれそうだ。

唯一、おそらく義勇と同室になりたいのであろう不死川が、
──いや、でもよォ…
と異議を唱えかけるが、そこは杏寿郎が“空気を読まない押しの強いキャラ”を最大限に利用して

「なんだっ?!君は確か…不死川っ!そう!不死川実弥だなっ?!
それでっ?!君は冨岡が一人になるなら同室になってもいいということだったが、心配無用だっ!
友人が多かろうと少なかろうと、くじで必ず同室者は決まるからなっ!!
それとも君は冨岡が嫌だと言っても彼と同室になりたい何かがあるのかっ?!

などと、彼が一番触れて欲しくないあたりを強調して見せるので、生温かい同期達の視線を前に、さすがに肯定も出来ずに引っ込むしかなかったようだ。

どこか悔しそうな気まずそうな不死川を前に生き生きとした表情を見せる杏寿郎。
相変わらず困った顔の宇髄と、心底ホッとしたような表情の義勇。

そんな当事者たちの顔を一巡しながら、錆兎はくじ引きの準備をすべく己のカバンを引き寄せた。

くじの細工自体は簡単だ。
錆兎と杏寿郎がそれぞれ1から25までの数を書いたものを切って袋に入れて名簿順に名前を呼びあげてそれを引く。
その際にそれぞれ怪しまれないように適当な数、義勇は7で不死川は19と、それぞれの番号は予め決めておいて、その数字は抜いておき、彼らの名の時には錆兎がこっそり袖口に忍ばせておいて、普通に引いたふりをして読みあげる。
もちろん、自分達の時も同じくそれぞれに対応した数字を引いたふりで読み上げだ。

錆兎も杏寿郎も不死川とも義勇とも接点は全くないので、他意があるのではと疑われるようなことはまずないが、念には念を入れて、真面目で気のいい男として知られる経理の村田を第三者として巻き込んでおく。
細工については村田には秘密で錆兎だけで行なった。



「冨岡義勇、7番」
と、義勇の番号を引いたふりで袖口に隠しておいた紙の番号を読み上げると、約3名、宇髄と不死川と義勇に緊張が走る。

錆兎にすればもう結果は見えているので、欠片も緊張はない。
淡々と…ひたすら淡々と出席者名簿に書かれた名を読み上げてはくじを引いて行った。

そうして何人か後、錆兎が
「不死川…」
とその名を読み上げると、さきほどの3人からの痛いほどの視線を感じる。

もちろんそれに気づかぬふりで、錆兎はやはり袖口に隠しておいた紙を引いたふりをして、他の人間と変わらぬ平坦さで淡々と
「…19番」
と読み上げた。

そこでそれぞれ緊張していた3人の表情が喜怒哀楽に分かれた。

不死川は青ざめ、義勇は心底ホッとしたように嬉しそうで、宇髄はひたすら痛まし気な視線を不死川に向けている。
そしてそんな3人3様の反応に、他は気づいていないようだが、杏寿郎も嬉しそうだ。

錆兎的にはこの相方に不機嫌になられるのが一番面倒なので、その様子にホッとしつつ、とりあえず保護するために被害者、冨岡義勇の方へと足を向けた。










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