捕獲作戦-開始-もしもお前が望むなら

そうして二人テーブルをはさんで正面に座ると、
「ではあらためて。
会社案内とかにも顔を載せられているから知っているかもしれないが、企画営業部の鱗滝錆兎だ。
気軽に錆兎って呼んでくれ。冨岡が嫌でなければ俺も義勇と呼ばせてもらう。
これから2泊の間よろしくなっ!」
と笑顔で言うイケメン。

そう、目の前の同僚は実に顔が宜しい。

彼はいつも友人や彼を慕う人達に囲まれているし、部署も違って接点がなかったのもあって、こんな近くで視線を向けられる機会など皆無だったが、こうして改めて間近で見ると、まるでディスプレイの向こう側に存在する芸能人か何かのように整った顔立ちをしていて、しかも一般人離れしたオーラがある。

…かっこいいなぁ…とぼ~っと見惚れていると、今度は笑顔が消えて気づかわし気な表情で、
──疲れたか?それとも心配事でも?
と顔を覗き込まれた。

それに義勇はぎょっとした。
近づくカッコよすぎる顔に、やめてくれっ!と思う。
そんなにカッコいい顔を近づけられると、いくら同性でも動揺する。

俺の心臓が止まったらどうするんだっ!!…とはさすがに言えないので、
「…えっと…さっきの話だけど……」
と、それはそれまで義勇の最大の悩みのはずだったのだが、なんだか話をそらすための話題になってしまった。

しかし錆兎はそんな義勇の内心に気づくことなく、
「ああ、そうだったな。不死川のことについて話すのが急務だな」
と、大きく頷いて前のめりだった体制を元に戻す。

離れて行くカッコいい顔。
残念なのかホッとしたのかは自分でもわからないが、それと意識することなく、はぁ…と義勇は小さなため息をこぼした。


そのため息を拾った錆兎は、どうやら義勇が思わずため息が出てしまうほど不死川のことで悩んでいるように思ったらしい。

「不死川とは仲が悪いのに付きまとわれていると言ったところか?」
と聞いてきた。

まあ今のため息はそれではないのだが、不死川についての認識は間違ってはいないので、義勇はそれに大きく頷いて、そして小学校時代から今に至るまでずっと不死川の暴力や暴言に悩んでいること、そして、嫌いなら嫌いで全然構わないので放って欲しいのに、逃げても逃げてもすごい勢いで構ってくることを伝える。

「あ~…やっぱりそんなところだったか。
それで提案というか…質問なんだが…」
と、錆兎はそこで言葉を切って少し考え込むと、ちらりと義勇に視線を向けた。

「……?」
「俺も杏寿郎もお前からしたら人間性とかがまだわからない人間だとは思うんだが、それでももしお前が助けて欲しいと望むなら、二人で不死川から守ってもいい。
余計なお世話なようなら、それはそれで最低限、今行動を一緒にしている間に目に余ることがある場合のみ介入するが…」

え?…と、そのあまりに不思議なレベルのありがたくも親切な申し出に、義勇は一瞬固まった。

だって確かに彼らは大変性格が宜しいことで有名な人気者ではあるが、それこそほとんど接点がなくて全く知らないに等しい義勇のためにそこまでやってくれる理由なんかないだろう。

「…それは…ありがたいけど……」
と、あまりに義勇に都合のよすぎる話過ぎて受けていいやらいけないやらわからず、義勇が言葉を詰まらせると、そんな義勇の戸惑いを察したのだろう。

「まあ何故いきなり俺達が?とは思うよな」
と錆兎が穏やかな笑みを浮かべて言った。
そして理由を説明してくれる。

「実は杏寿郎にはあいつと血がつながっているとは思えないほど穏やかで大人しい弟がいてな。
それが一時学校で嫌がらせを受けていたんだ。
で、あいつはもう弟を溺愛しているから、それ以来、一方的な暴力や暴言を向ける行為…いわゆる苛めが大嫌いでな。
先日たまたま不死川がお前に絡んでいるところを目にして大激怒していたんだ。
だがその時は仲の良い気の置けない者同士の遠慮のないやり取りという可能性もあるから、様子を見ろと言っておいたんだが、今日、お前が明らかに不死川のことを嫌がっているように見えたから、俺達が介入することに対しての意思確認をしているわけだ」
との錆兎の説明に、こちらもなるほど!人気者コンビの方にも理由があったのか…と納得する義勇。

まったく無関係なあたりに一方的に迷惑をかけるだけではないとわかれば、断る理由はない。

「ぜひ!お願いできたら本当に助かりますっ!よろしくお願いしますっ」
とかなり前のめりになって言うと、錆兎は
「こちらこそ。
断られたら不死川ではなく杏寿郎の方をなんとかしなければならないんだが、そちらの方がより厄介だし、助かった」
と笑って言った。









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