部屋割りは平等にくじで決めた方が良いのではないか…と言いだしたのは、企画営業部の煉獄杏寿郎だった。
彼と彼の親友の鱗滝錆兎は会社の顔とも言える有名人で、会社のホームページや会社案内にも大きく写真が載っていた。
なにしろ二人して学生時代には一流の高校、大学に通っていただけではなく、剣道で全国優勝、準優勝しているという文武両道の男達で、知力と根性だけではなく二人して人当たりの良さも兼ね備えているので、仕事も出来る。
おまけに二人して顔がいい。
いや、顔が良いからどうだという意見もあるだろうが、会社の顔として前面に押し出すなら見目麗しいに越したことはない。
現に二人が会社案内に載るようになってから入社した社員の中には、彼らに影響を受けて入ったと言う人間もいるくらいだ。
出来る男達なのだがどうやら性格も素晴らしく公平で面倒見が良いらしく、上司にも部下にも…そして取引先にも大変評判がよろしい。
大きな案件をいくつも抱えながら、可能な限り後輩育成にも関わり、困っている同僚が居れば真っ先に手を差し伸べる気持ちのいい男達だということだ。
そんな彼らの事だから、あきらかに揉めている義勇と不死川、そして宇髄の状況を見て、なんとかしてやろうと思ってくれたのだろう。
とりあえず100名いる同期の中で半数は女性と言うことで、男の部屋割りは50人分、25部屋。
くじ引きということなら絶対にとは言えないが不死川と同室になる可能性はかなり減る。
もし同室になってしまったら、もうその後の不死川の怒りは未来の自分にまかせて仮病を使って帰ってしまおう。
そんなことを思いつつ、くじ引きの準備が出来るのを待った。
こうして会社の人気者コンビの一人、宍色の髪が目印の鱗滝錆兎がノートを取り出して、そのうち2ページをビリリと破く。
そして
「杏寿郎、片方よろしくなっ!」
ともう一人の派手な赤い色の差しの入った金色の髪の煉獄杏寿郎にそのうちの1枚とペンを渡した。
「1から25だなっ?!」
「おうっ!!」
と以心伝心らしいやりとりのあとに、二人してガリガリとそれに数字を書いていく。
どうやら二人して別々に1から25の数字を書いているらしい。
そしてすぐ書き終わると、今度は筆箱からハサミを取り出し、順番にチョキチョキチョキ。
そして切り終わると大きな書類をいれるような茶封筒を出して、その紙をそこにいれていく。
「…ということで、宇髄!名簿をくれっ!」
と準備が整ったところで錆兎の方が宇髄に言った。
そして宇髄から名簿を受け取ると、顔をあげて全体に向けて説明をする。
「ここに俺と杏寿郎がそれぞれ1から25まで書いた紙を切って入れた。
一応不正がないように名簿を上から読み上げて、俺が引いて杏寿郎が番号を読み上げて行こうと思う。
俺だけだと何か偏りがあると良くないだろうから、そうだな、村田っ!お前も一緒に引いてくれ。
俺が引いた後は村田が引いて、そのあとはまた俺でと交互に引いていく。
俺が不正をしようとしても村田が半分引くということなら出来ないだろうし、それで構わないだろうか?」
と全体に問う錆兎。
もちろんそれに異議を唱える者はいない。
元々公明正大で人の宜しい企画営業部のエースコンビの不正などありえないし、彼が指定した村田は経理部で非常に信頼されている男だ。
この男たちが揃って裏で談合などまずありえない。
ということで全員が納得して部屋割りのくじ引きが始まった。
「宇髄天元…5番」
と、まず最初に幹事で一番上に名を連ねていた宇髄の名と共に引いたくじの番号が煉獄によって発表される。
(…宇髄は5番か……5番にならないかな……)
とそれを聞いて義勇は心の中で思った。
しかし何人か読まれたあとに、
「冨岡義勇…7番」
と義勇の名前と部屋番号が読み上げられ、義勇は少し青ざめる。
宇髄と同室にはなれなかったし、現在名を呼ばれたのはだいたい20人ほどで、その中には5番だった人間はいなかった。
そしてまだ名を呼ばれていない不死川。
もし一緒の部屋になったらどうしよう…と、部屋割りがくじ引きになった時点で少し持ち直した気持ちがまた暗く落ち込んでいく。
ガタガタと震える手。
唇をかみしめて下を向きながら次々読み上げられる名と部屋番号を聞いている義勇だったが、ついに
「不死川実弥…」
と言う声が聞こえた。
(神様、神様、神様…お願いだからっ!)
とその先を聞くのが恐ろしくてぎゅっと目をつぶって耐えていた義勇だったが、その切なる願いが天に届いたのだろうか…続いて告げられたのは
「…19番!」
という声で、はあぁ~っと一気に肩の力が抜けて行った。
あまりにホッとしすぎて当の不死川が少し離れたところで唇をかんで青ざめていることには義勇は気づかない。
とにかく良かった。本当に良かった…と、胸をなでおろす。
その後はあまりにホッとしすぎて何も耳に入ってこなかった。
宇髄でもなく不死川でもないという時点で、同室者が誰であれ義勇にとってはあまり変わりはない。
しかしその認識が実は間違っていたことに気づいたのは、いつのまにか全員のくじが引き終わって部屋に移動するとなった時である。
「冨岡、これから2日間、同室だけどよろしくなっ!」
と爽やかすぎる笑みを浮かべながら右手を出してきたのは、なんとエースコンビの一人、鱗滝錆兎だった。
え?え?と驚いて固まる義勇に気を悪くする様子もなく、
「なんだ、移動で疲れてたりするのか?
これ、お前の荷物だろう?一緒に部屋に行こう」
と当たり前に義勇の荷物も持って先に歩き出すので、義勇は慌ててそのあとを追った。
これから2日間…この人気者と同室とは喜んでいいのか悲しんでいいのか…どんな感情を持てばいいのかわからない…と思いながら。
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