おそらく藤襲の他の寮長や高等部生達が見たら感動のあまり目を潤ませるであろうこの光景は、そのスピリットを根底から否定した小郎には不快なものとしか映らなかった様である。
口の端を歪めて嫌な笑みを浮かべて美和を見た。
と言う言葉には寮長として…そして寮生の一員としてあるべき姫君への敬意は感じられない。
それに錆兎は不快感を感じた。
そう、そこで自身だって義勇に出会うまではさして重視していないように思っていたこの姫君を戴くという慣習を、自分も藤襲の学生として大事に思っていたのだと今更ながら気づく。
そして、小郎を排除することという宇髄の共闘の条件に改めて心の中で強く同意した。
彼をこの学園の寮を…寮生達を仕切る寮長としておくべきではない。
小郎をその座から引きずり下ろすために戦う気は満々だ。
そしてその意志は、飽くまで金竜の姫君を背にかばい、引き返す様子のない錆兎の様子で相手にも伝わっているだろう。
しかし学園最強と言われる銀狼寮寮長を前に余裕を見せる小郎。
理由は簡単だ。
彼には多くの人質…中等部生達がいる。
「余計なことに関わんなきゃいいのにな。
俺らに殴り倒されれば銀狼も地に落ちるし、かといって中等部生を見捨てて殴り掛かってきたとなったら、やっぱり評判は地の底までまっしぐらじゃね?
動いても動かなくても終わりだよな」
と小郎はニヤニヤと笑いながら後ろの各バルコニーにチラリと視線をやることで、錆兎達が動けばなんなら中等部生達をバルコニーから突き落とすぞと暗に脅しをかけてきた。
そこで錆兎は綺麗な形の眉を寄せ
「さすがクソ外道な卑怯ものは言うことが違うな」
と苦笑する。
その錆兎の様子は平静な表情をしているだけにとても馬鹿にしている感が際立って見えて、小郎はかなりイラっとしたようだ。
「俺は賢いだけだっ!
必要なら馬鹿なガキも姫君なんて言っておだててやるし、その必要がなくなったら上手く再利用してやろうとしただけだっ!
藤襲最強なんて言われて調子にのってる馬鹿な下級生に現実を見せてやるのは、賢い大人としてのちょっとした親切心だっ」
と、叫んでサっと手をあげた。
それはおそらく攻撃の合図だったのだろうが…シンと静まり返る寮内。
──…えっ…?
何も起こらない後方に小郎が不思議そうに振り返れば、中等部生達を拘束していたはずの高等部生達は中等部生ごとバルコニーから姿を消し、人気のなくなったバルコニーの中で唯一、最上階である3階のバルコニーから茂部太郎がぜーはーぜーは―荒い息を吐きながらも、錆兎に向かって敬礼していた。
「残念だったな。
所詮薬物を使って洗脳したまがいものの忠誠心など、長続きすることはないっ。
そんな手を使わないと誰も付いてこない貴様と、役にたつために自主的に動く部下を持った俺と、調子に乗っているのはどちらだろうな?」
そう、遊撃を申し出た茂部太郎はその存在感のなさを最大限に発揮して金竜寮内に潜入し、一つ一つのバルコニーを地道に回って高等部生達の洗脳を解き、再洗脳を防ぐために念のため飾り紐で作ったブレスレットを渡して回ったのだ。
何度も何度も役にたってくれたモブ三銃士としてはそういう行動に出る流れだろうな…と錆兎も理解した上で、彼が仕事を終えるまで小郎をこの場に引き付けて言葉で関心を向けさせて、行動に出るのを防いでいたというわけだ。
正気に返った高等部生達は今頃寮内で中等部生達の手当てをしているところだろう。
なので錆兎は救護班に金竜の姫君である美和を護衛しつつも金竜寮内に入り、怪我人の救護に当たるように指示をする。
「ふざけるなっ!!金竜の寮長として他寮の人間が寮内に入る許可はせんっ!!」
とキレる小郎。
だが多勢に無勢。
十数人の銀狼の護衛に囲まれた美和が
「お前なんか金竜の寮生を名乗るなっ。
金竜を裏切って踏みにじったただの薄汚い裏切者がっ。
銀狼の寮生は人道的支援にきてくれたんだ。
俺が金竜の姫君の名において入寮を許可する」
と、毅然と言って共に横を通り過ぎるのを止める術はなかった。
今さら気づいたんですが、斉小郎ってサイコロステーキ先輩からですか…(;´∀`)💦
返信削除ですです!最新章まで金竜の寮長は名無しだったんですけど、今回かなり出てくるのでそろそろ名をつけようと考えた時に、性格的に彼かなと😁
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