──申し訳ありませんっ!いかなる処罰も受け入れますっ!!
それはなかなか壮観だった。
その勢いにビクッとわずかにおののく姫君は、気の強い彼らしくもなく少し困った顔で錆兎を見上げる。
それに苦笑する錆兎。
お前が決めることだと突き放しても良いのだが、姫君と言えどもそこはいきなり激動の中に放り出されて乗り越えたばかりの中等部生である。
「あ~…半殺しにしてもかまわんが、それでは本人達の自己満足で終わるしな。
どうせなら助けた姫君の判断が正しいものだったと誰もが認めるように功績をあげさせた方が合理的じゃないか?
ま、俺はそう思うが所詮別寮の人間だしな。
決めるのは現在この金竜の唯一の御輿で責任者な姫君だ」
と助け船を出してやる。
操られていただけということが明らかな上級生達を痛めつけるということには躊躇いがあったらしい金竜の姫君はその言葉に心底ほっとしたようだ。
錆兎にわずかばかりに笑みを見せたあと、スン…と澄ました顔で
「犯した罪は功績で償え。
そのために今回は不問にするが、次はないぞ」
と言いつつ手で土下座をする高等部生達に立つように合図する。
そこで彼らは一斉に立ち上がり、今度は揃って綺麗な直角の礼をした。
これでなんとかめでたしめでたしか。
武装までは必要じゃなかったか?…と、それでも平和的に終わりそうな争いにホッと息を吐きだした錆兎だが、次の瞬間、
「美和を寮内に逃がせっ!!」
と叫ぶと、彼を金寮の高等部生の方へと押しやって、自分は自寮の寮生の方へと駆け出した。
──全員、木々の中へ退避っ!!
との皇帝の言葉に銀の狼達は急な命にも関わらず動揺することなく即訓練された動きで道の脇に生い茂る木々の下へと走る。
そうして彼らが居たはずの金竜寮前の広い敷地には、大きな音と共に土煙が舞った。
──ありえん…。校内で火器使ってくるか?
と、誰にともなくつぶやく錆兎。
そう、いきなり錆兎達が来たのと別の側の道から火器をぶっ放した輩がいた。
銀狼の寮生が来たのは銀竜側から…ということで、残る金狼側からである。
夜目がきく錆兎にはそれが誰かもわかってしまった。
見知った顔。
先日の姫君戦争では自分のすぐそばにいた同級生…。
(…あ~、やはりあいつだったんだな…)
と、さして意外性もないその相手だが、一応自分の同級生でもあるが不死川の幼馴染ともいえる相手らしいので、少しばかり対応に悩んでしまう。
まあ、悩んでも仕方ないわけなのだが…。
さあ、どう料理するべきか…
とりあえず相手の本命の標的はおそらく自分ではないという余裕もあって、錆兎はガリガリと頭を掻きながら、今後の戦闘の絵図を脳内で組み立てていった。
0 件のコメント :
コメントを投稿