寮生は姫君がお好き1037_ボロボロな漢気

──おや、うちのを連れ帰ってくれたのか、将軍。

慌てた寮生とは対照的に、少し経って出てきた小郎は随分と落ち着いていて、にこやかに言う。

──どう見ても友好的な理由で来たようには見えないよな?魔女の薬で正気でも失ったか?
と、それに応じる錆兎は声こそ荒げてはいないが表情は険しい。

互いに笑顔を浮かべながらもバチバチと飛ぶ火花。
その攻防を待ちきれなくなったのは金竜の姫君、美和である。

──祐輔達みんなはどうしたっ?!
と一歩前に出ようとして錆兎に止められる。

それをニヤニヤと眺める小郎。

──あ~、寮を裏切った裏切者達はお仕置きしておいた。会うか?
と後方の高等部生にアイコンタクトを送ると、その寮生がまた寮内にいる寮生に声掛けをして待つ事数分。

バッとこちら側に面した部屋のバルコニー全てに見える人影。
それは高等部生達に引きずられるようにされている傷だらけで後ろ手に縛られた中等部生達だ。

──…みんな……
と言ったきり言葉のない美和。
ポロポロ流れ落ちる涙。

そんな中でおそらく今回の姫君避難計画の首謀者なのだろう。
一際ボロボロの中等部生が小郎の下へ引きずられてきた。

錆兎も彼の顔には見覚えがある。
いつだって姫君の傍らにいて、前回の小郎が自寮の姫君を見捨てて勝利に走っていた時も、2学年も上で寮長の中でも最強と言われていた錆兎相手に一歩も引く様子もなく、姫君を守るために自分が間に立ちはだかっていた少年だ。

おそらくこれが今美和が言った祐輔なのだろう。


全身傷だらけなのはもちろんのこと、左腕がダランと変な方向に曲がっているところを見ると、骨が折れているようだ。

それでも少年は
──将軍を動かしたのかっ…さすが俺らの姫君っ!
と不敵に笑う。

ああ、もうこれは…と錆兎は泣きそうな気持で思う。
動いて良かった。動くべきだった。
自分より年下で物理的には遥かに弱い中等部生の少年達の必死な漢気を汲まなくて何が最強の寮長だと言うのだ。

そんな錆兎を感動させたボロボロの少年たちの漢気は、しかし自寮の寮長には欠片も顧みられることはなかったようである。

──…みんな…
泣きながらそのあとに”ごめん”と告げようとしたのだろう、美和が”ご”の形に開いた口を、錆兎はパシッと手で制して叫んだ。

「謝るなっ!お前だけは謝るなっ!
お前が謝ったらこいつらの決断が意味のないものになるっ!!
こいつらの判断は正しいし、お前は悪くないっ!
どうしても何か言いたかったら褒めてやれっ!
よくやった、頑張ったと言ってやれっ!
愚か者達は俺たち上級生がなんとかするから、お前は褒めろっ!
こいつらを褒めろっ!!」

その言葉に中等部生達はそれぞれが痛みに顔をしかめながらも何かを期待するように美和に視線を向ける。

一斉に向けられた視線に一瞬おののきながらも、そこは唯一残された金竜の御旗という自負に後押しされたのだろう。

──皆、よくやってくれたっ!俺と一緒に暴君を倒して金竜の誇りを取り戻そう!!

まだ声変わり前の高い声は頼もしさは足りないが、それでもそれまですがるような視線を送っていた中等部生達は、その言葉に一斉に痛みをこらえながらも歓声をあげた。











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