寮生は姫君がお好き1032_楽しい妄想

打倒、銀狼寮姫君!!…を当面の目標にすることを決意した亜子。

明日からは本格的に落とすターゲットを錆兎に絞って、彼と一緒にあの女…もとい、あの女に似た銀狼寮の姫君を追い詰めて行こう。
なんならすべてが寮対抗のこの学園でライバルにあたる他の寮の姫君をやっぱり味方につけてもいい。

そんなことを考えながら自然に険しくなる顔にハッとして、亜子は鏡の中の自分に向かって自分的に一番優し気で魅力的に映る笑顔を浮かべて見せた。

純粋、清楚、無邪気な印象を持たれるように心がけて練習に練習を重ねた笑み。
たいていは最終的に女に邪魔をされて成就しなかったが、異性のみの場所ではほぼ好印象を持ってもらえてきた。

あの女さえ居なければ本当なら今頃憧れのあの人の妻になっていたかもしれないと思い続けてきたのだが、こうして名門の子息達に想いを寄せられる環境になった今考えてみれば、あの時あの程度の男と一緒にならなくて良かったのかもしれない。

今はとりあえず年齢的に少しでも近いように童磨あたりをと思ったが…実際に彼も年齢なんて気にならないくらいにはとても魅力的な男性だが、たかだか2年くらいしか違わないなら錆兎をパートナーにしたい気がしてきた。

あれだけ美しい男はそうは居ない。
しかも美しいだけではない。
寮長としては最下級学年である1年生でありながら、自寮を最強の寮と言われるまでに押し上げてきた優秀な人間だ。
あれだけの男と最終的に一緒になれば、これまで不遇だった恋愛人生でもお釣りがくる。
自分をさんざん陥れて来た女達を見返してやれる!

数年後…今より少しばかり大人びた錆兎の横に花嫁として立つ自分に悔し気な視線を送りつつも玉の輿のおこぼれに預かろうと愛想笑いですり寄ってくる友人のフリをした女達の姿を想像すると、自然に笑みがこぼれた。


それにはまず邪魔者を片付けなければ…。
資料によれば銀狼寮の姫君は吹けば飛ぶような一般人の…しかも孤児らしく自己肯定感が著しく低い。

つまり…気が強い方でも頭が回る方でもないだろう。
錆兎ほどの人間にかしづかれる価値なんてないのだというあたりを少し突けば泣いて逃げ出してくれるに違いない。

くっつかなくて良かったとわかったとしても、亜子の最初の恋愛におけるプライドを姑息な立ち回りでへし折ってくれたあの女に対する怒りが消えるわけではないので、あの女に似た銀狼寮の姫君が自分に負けて惨めに逃げ出す姿は絶対に見たいと思う。
そして早ければ明日にでもそうなるのだと思えばテンションも上がってきた。

…が、そんな時鳴り響いた一本の電話。
重要な相手だけに着信音も通常と変えておいたJSコーポレーションの担当者の松村の電話である。

──…進捗確認かしら?
と誰ともなしに呟いて、亜子は首を傾げつつ通話をタップ。

──はい、柏木亜子です。
一呼吸おいてそう出ると、松村はやや焦ったような声音で
──ああ、私だ。確認したい。まだ銀狼寮の姫君には接触していないよね?
と予想外の言葉を投げかけてくる。

まさにたった今考えていた人物について触れられて、亜子はますます不思議に思った。

そして
「ええ。今の時点では落としたのは3年2寮の寮長と2年の金竜の寮長、あとは銀竜の寮長も一度は落ちたんですけど、何故か洗脳が解けてしまって…。
1年の2寮はまだ手付かずですけど、明日には…」
と答える亜子の言葉は
「銀狼寮は手を出さないようにっ!
あの寮だけはスルーでっ!!」
と強い語調で言う松村に遮られた。

え?ええ???
何故?!どうしてっ?!

「待って下さいっ!!何故ですか?!納得できませんっ!!」
亜子の方も自然と強くなる語調。

そう、納得なんてできるわけがない。
パートナーとしての寮長も、徹底的につぶす敵としての姫君も、どちらも銀狼寮が本命なのだからっ!










0 件のコメント :

コメントを投稿