寮生は姫君がお好き1030_出陣式

錆兎が寮内の大広間についた時には、すでに寮生達は皆、前回の寮対抗戦略大会…通称姫君戦争時に着用していた銀狼寮のトレーニングウェアを着用の上、モブ三銃士の一人の仁の指示で運び込まれたソレ用の防具を身に着けた状態で皇帝を待っていた。

そこに寮長錆兎は銀の狼の刺繍がされたマントを颯爽と翻して登場する。
その雄姿に寮生達は、おぉ~!!!と歓声をあげた。

寮発足から早半年。
トレーニング大好きな寮長につられるように寮生達もトレーニングに励んでいたので、今の銀狼寮はすっかり武闘派集団と化している。

先の姫君戦争では皇帝は隣の金狼の寮生を率いての進軍だったので、その筋肉を存分に発揮する機会はなかったが、今回は思う存分活躍してもらうことになるだろう。

もちろんそのままでも物理的に強いことはもう錆兎も十分予測はしているが、戦いはなにはともあれ士気である。

そういう意味では姫君が用意してくれたこのマントは大変有用だ。

まあ…正直誰が見てもカッコいい。
俺らの皇帝、まるでドラマのヒーローじゃね?最強じゃね?かっこよすぎじゃね?
と、モブ三銃士のような言葉を寮生達が吐く。

そこにキリリと凛々しい皇帝が、腹の底から出す大きな声。

「俺達はこれからこの学園の伝統と誇りを踏みにじり仇を成そうとする女教師とその背後にいる勢力に戦いを挑むことになった!
相手は学生を洗脳するためにすでに使用後の副作用も定かではない違法な新薬を使用しているような輩だ!
こちらの身の安全も当然保障されるものではないが、命を惜しんで誇りを捨てる狼は居ないと俺は信じている!」

まるで芝居のように朗々と語られるその言葉に、寮生一同は熱い目をして聞き入っていた。

「俺達はまず、巨悪の手先である柏木亜子の使い走りに成り下がった金竜寮の小郎を倒すっ!
そして奴が柏木亜子に売り渡そうとした姫君を守るため、勇敢にも己が身を挺して我が銀狼寮に姫君を逃がした金竜寮の中等部生の救出に向かう!
しかしながら、柏木亜子に薬物で洗脳されている金竜寮の高等部生の抵抗にあうだろう!
その対応として、これから皆に5本ずつ飾り紐を配布する。
これは我が銀狼寮の姫君が祈りを捧げたもので、これを巻けば洗脳を無効化できる。
当然その効力はすでに実証済みだ。
我々は姫君の加護があるため、今までもそしてこれからも魔女の洗脳にかかることはないが、他寮の人間は違う。
だから洗脳の解けた他寮の学生にはこの飾り紐をブレスレットのようにしてつけさせろ!」
と錆兎が飾り紐に言及すると、仁が箱に収められた香水付きの飾り紐を配っていった。

それを指示される通り端を結んで輪にする寮生達。
普通ならそんな非現実的なこと…と思うところだが、そのあたり、銀狼寮の寮生はしっかり訓練されていて、誰も疑うことがないのがすごい。

…これがカリスマというやつなんだな…と、義勇は錆兎に尊敬の視線を送った。

その義勇自身も、どうせならそれっぽい方が…と言う茂部太郎の提案で、何故かモブ三銃士達が義勇のサイズに合わせて作ってあった、エルサイアオデッセイのヒロイン、アリアの衣装を身に着けている。

歩くと細かく繊細なドレープが揺れて、布地にちりばめた小さなラインストーンがキラキラと光る様は、いつもキラキラと光が舞っている描写で描かれるアリアを再現するためのものらしい。

確かに大広間の前方の段に立ち、上からライトを当てられると、本当に義勇がキラキラした光を放っているように見える。
そんな我らが姫君が祈った飾り紐にご利益がないなんてことはありえない。
それが寮生達の総意である。

ということで、少し後方に立っていた義勇を前に出す錆兎。
それに寮生達は一斉に輪を作る手を止めて、前方を見入った。

「ということで、今回は総力戦だ。
俺達は金竜の姫君と共に金竜寮に戦いに赴く。
その間、俺は当初我らが姫君は外部に避難してもらう予定を立ててたんだが、姫君もまた誇り高き銀狼の魂の持ち主だった。
この寮は俺達の城で銀の狼達が戻る場所だからと、この場に残って俺達が帰るまで死守することを申し出てくれた。
だから俺達はその気高い志に応えるためにも絶対に勝って帰る!
勝って帰るぞっ!!」

拳をふりあげた錆兎の言葉に、寮生達も、おお~!!!と雄たけびをあげながら拳を振りまわす。

──ちきしょう、悔しいけどかっこいいぜェ
と、すでに金竜寮から連れ出した善逸を横に、舞台端から壇上で演説をする錆兎に若干羨まし気な視線を送る不死川と、
──銀狼寮、怖いよ、軍隊?訓練され過ぎだよ
と怯えた顔の善逸。

銀狼寮の寮生達が金竜と交戦中に全自寮生と共に銀狼寮の留守を預かることになっている銀竜の寮長村田は緊張した面持ちだが、姫君の無一郎の方は
──さすが錆兎将軍。乗せるの上手くて頼もしいね
と、笑顔を見せた。











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