今日は色々激動だった。
新任の女性教師の赴任初日。
最初は色々と不安だったが、我らが寮長、錆兎自身は新任教師の色香に揺らぐことなく、義勇を優先し続けてくれている。
彼女曰く、学生達に話を聞いた限り、みんな副寮長を姫君として遇する制度に不満を持っているとのこと。
それはまさに義勇が恐れていた話で泣きそうになったが、スピーカーで会話を聞いていた炭治郎が筆談で少なくとも銀狼寮ではそれはないと言ってくれた。
確かに女教師が来ても銀狼寮の皆の義勇に対する態度はなんら変わることはなかった。
でも内心不満に思っていないと断言できるほど、義勇は人の感情の機微を察することが上手ではない。
なんと答えていいかわからずただ泣きそうになっていると、今度は義勇のせいで錆兎が可哀そうだという話になって、動揺した。
確かに義勇自身、錆兎みたいに完璧な男が義勇みたいになんの取り得もない人間に仕えてくれているなんて申し訳ないと常々思っていたのである。
言い返す言葉もない…と、もう、いっそのこと学園を出て行こうか…などと言う考えが頭に浮かんだ瞬間、いきなり錆兎が現れて、義勇を選んだのは自分を含んだ寮生全員なのだから、大きなお世話だと言い返してくれて、なんだかさっきとは別の意味で泣きそうになった。
…と、そこまでは良い話。
でもその後、錆兎は炭治郎が録音しておいたその会話のデータを保管したいからと、義勇のスマホを持ってまた出て行ってしまった。
そこで不安が再来する。
本当に?本当にそれだけ?
実はああ言っても女教師、柏木亜子に連絡を入れて仲良く話したりしていない?
錆兎を疑うわけじゃない。
錆兎は嘘をつくような人間じゃない。
でも錆兎は優しいから義勇を傷つけまいとして、義勇の前ではああ言ってくれた可能性は?
結局義勇は自分に自信がないのだ。
そんな自信のない自分を大切に思ってくれる相手としては、錆兎は完ぺきな人間すぎる。
はぁ…と思わず漏れるため息で、炭治郎に心配をかけてしまって、ああ、ダメだなと思うとまたため息。
錆兎に大切にしてもらう価値のある人間でいるようなことを何も出来ない自分がもどかしい。
自分が価値のない人間なのに、柏木亜子と錆兎が仲良くならなければいいな、などと考えるのは、あまりに性格が悪すぎる。
と、そんなことを思ってしまえば余計に落ち込む義勇だったが、そこでいきなりモブ三銃士に錆兎が呼んでいるからと言われて向かった。
そしてなんとよくはわからないが、金竜の姫君が居て、錆兎は彼から救援依頼を受けたらしく、銀狼寮はこれから金竜寮の中等部生の救出に行くから義勇にいったん錆兎の実家の渡辺家に避難しろと言われる。
避難?自分だけ?
皇帝である錆兎と全銀狼寮の寮生達が戦うのに?
と思えば、いくら錆兎の言うことだと言っても大人しく頷くわけにはいかない。
何も出来ないダメな人間だったとしても、自分は銀狼寮の皇帝である錆兎と対になる姫君なのだ。
一緒に戦いに行っても足手まといになるのは目に見えているので一緒に行きたいとは言えないが、せめて錆兎の城を死守するくらいはしたい。
皇帝が出かけて守り手がいない寮を守らずして何が姫君だ。
…とそんな対外的な気持ちと共に、誰も居ない状態で唯一錆兎と居られる大切な場所を踏み荒らされたくない、この場所を失くして錆兎と一緒に居られなくなったら絶対に嫌だ!というさきほどからずっと感じている不安な気持ちもあって、断固として残ることを主張した。
錆兎は危険だからと反対したが、じゃあ銀竜寮が全員ここで待機するからという無一郎の厚意で残れることになってホッとする。
そして最終的に、ずっとこっそりと縫っていた銀狼の刺繍入りのマントを錆兎に着てもらって、さらに心が落ち着いた。
柏木亜子がどれだけ魅力的な女性だろうと、錆兎の城を守るのも、錆兎がここ一番の時にまとうマントを用意するのも自分なのだ、ということで、義勇はやっと少し不安を押し込めることに成功したのである。
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