「おぉっ?!すごいなっ!!」
立派な刺繍のマントを手に驚く錆兎に義勇はムフフッと嬉しそうに笑う。
「誰かが姫君戦争で虎の皇帝が虎の刺繍のマント着てたって言ってたから…うちも着たらカッコいいかなと思って、こっそり刺繍してたんだ」
と言う姫君は最高に可愛い愛おしい。
「ありがとうなっ!
姫君の香りをまとって、姫君が刺繍してくれたマント羽織ってたら、もう俺は負ける理由なんて一つもない」
そう言って笑顔で義勇を抱きしめる錆兎に、茂部太郎が──皇帝、そのことなんですが……と、口を開いた。
「ん?なんだ?」
と炭治郎と並んで義勇の後ろに立つ茂部太郎に視線を向けると、茂部太郎は
「飽くまで可能性なんですが…」
と前置きをしつつ、香水の小瓶をかざして見せた。
「うちの寮の寮生にだけ敵の洗脳が効かない理由って…姫君の香水が原因の可能性が高いということだったじゃないですか。
今日中に学生全員に十分な量の香水を揃えるのは無理だとしても、簡易的に香りをつけたものを配れば再洗脳を防げるんじゃないでしょうか?」
「あ……そうか…!」
茂部太郎の言葉に錆兎はハッとした。
確かに香水をつけている銀狼の寮生には暗示が効かないだけではなく、洗脳されている学生も近づけば洗脳が解けるという現象が起きている。
しかしそれも一過性でまた再洗脳される可能性を考えれば、正気に戻っても縛り上げておくしかないかと思ったが、とりあえず香りのついたものを身につけさせればそれを防げるかもしれない。
さすがモブ三銃士。
と感心する錆兎だが、当の茂部太郎は
「やっぱりエルサイアオデッセイのアリアは巫女姫で、聖なる力の持ち主なので、うちの姫君もきっとそうだと思いますし、姫君印のお守りって絶対にご利益あると思うんですっ」
と、微妙に二次元と三次元の間をフラフラした結果、思いついたようだ。
まあそれでもいい。
結果が正しければ過程などこの際どうでもいいことだ。
「たぶんそれは有効だなっ!
最終兵器は香水を染み込ませたグッズか…
…ってことで…今いくらか香水の余分はあるか?」
と聞けば
──ありったけ持ってきますっ!
と自室に向かってダッシュしていく。
しかしその後姿を見送った義勇が
「錆兎、香水が洗脳の解毒剤とわかると、それを作っている茂部太郎の家や研究をする射人の家は危なくならないか?」
と少し気づかわし気に眉を寄せた。
「あ~、そうだな。
義勇はよく気づくし優しいな」
と姫君に微笑みかけながら、錆兎は少し考えて、
「お姫さん、手芸趣味ならいくらか太めの糸か細めのリボンとか持ってたりしないか?」
と聞く。
「…飾り紐なら色々持ってるけど?」
「じゃ、それをありったけもらえるか?
あとで買って返すから」
「別にいいけど??」
言われて義勇は自室に入って箱いっぱいの糸やリボンを持ってくる。
それを受け取った錆兎はハサミでそれを片っ端から切って、戻ってきた茂部太郎が手にしていた香水をふりかけた。
「…これは?」
と聞く義勇に
「さっきの話にもあったが、とりあえず香水を染み込ませたグッズを作る。
それであとで寮生皆でこいつを輪に結ばせて、洗脳から身を守れる銀狼寮姫君印のお守りのブレスレットとして他寮の奴に配るから。
これなら紐の方に気が行って洗脳の解毒が香水って方向にいかないだろう?」
とウィンク。
「さすが錆兎っ!!」
と、それに感心する義勇と
「聖なる巫女姫アリアのお守りですねっ!」
と盛り上がる茂部太郎。
「とりあえずこれで準備は出来たし、寮生達もそろそろ集まってるだろうから俺も広間に行く。
義勇も出陣式は出席して、その後は炭治郎と実弥、それに無一郎と我妻とで城の守りな?」
と、錆兎は大量の糸の入った箱を茂部太郎に持たせると、義勇の手を取って広間へと急いだ。
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