──あ~、仕方ないっ!三銃士、誰か義勇と炭治郎を呼んで来てくれ。
結局錆兎は決断せざるを得なかった。
少なくとも知らなければもう少し放置できたものでも、こうして知ってしまえば学園の伝統と誇りを踏みにじろうとする輩を放置するのは、錆兎の心情うんぬんは置いておいても寮としての評価に関わる。
ということでいったん炭治郎と共に義勇を安全な渡辺家に逃がしたうえで、自身は争いの中に身を投じる、これが錆兎の下した判断だ。
錆兎の指示でモブ三銃士の一人、仁が炭治郎の部屋に向かっているわずかな時間、錆兎は金竜の姫君である美和に手短に結論を伝える。
「銀狼寮はこれから30分以内に自寮の姫君は校外に緊急避難させたうえで金竜へ中等部生の救出に向かう。
高等部生もおそらく俺らが接近すれば目を覚ますが、覚まさない奴らは容赦なく潰す。
お前は血迷った寮長を排除するために金竜の御旗として俺の横で自寮の寮生を鼓舞しろ」
「…錆兎将軍……
…………
…………
うん!わかったっ!!」
美和は一瞬驚いたように目を見開いて固まったが、どうやら自寮よりははるかに強いであろう銀狼寮が動いてくれるということで、ホッとしたのだろう。
ポロリと涙を零しながらも、すぐうんうんと頷いた。
その時仁に連れられた義勇と炭治郎が到着。
そしてそこにモブ三銃士だけではなく、何故か金竜の姫君も居ることに目を丸くした。
「ごめんな、義勇。
緊急事態だ。
これから炭治郎を護衛につけるから一緒にしばらく渡辺家の別宅へ避難してくれ」
やることは山とあった。
美和が逃げたことはもう小郎には伝わっているだろうし、逃げた先を考えた時に銀狼寮が候補に挙がっている可能性は十分ある。
なのでここからはスピード勝負だ。
「説明は茂部太郎頼む。
でもって…射人は姫君戦争の時の武器庫から武器を広間に運べ。
寮生何人か使って良いから。
俺は…とりあえず緊急事態宣言だな」
と慌ただしく指示をする間にも、茂部太郎が実に手際よく義勇と炭治郎に事態を説明している。
それを横目に錆兎は寮長室から全寮生に向けて発信をした。
「全寮生に告ぐ!緊急事態だっ!
全員姫君戦争時と同様の服装に着替え、急ぎ大広間に集合しろっ!
そこに用意されている武具を身に着けた状態で俺を待てっ!」
そう言い終わると通信を切って、今度は他寮組が待機中の寝室へと飛び込んだ。
そして言う。
「といういうわけだ。
俺は美和を連れてうちの寮生と共に金竜に向かって進軍する。
宇髄は洗脳解除に三銃士の一人をつけるから自寮の高等部生を正気にしたうえで、万が一洗脳が解けない3年がいたらそいつ達を抑えてくれ。
まあ…3年全員が正気に戻ったら援軍に来てくれてもぜんっぜん構わないというか…それしてくれたら俺の中の宇髄の評価が爆上がりするけどなっ!
実弥はとりあえず我妻を逃がせ。話はそれからだ。
無一郎は…村田に話を通して、少なくとも敵には回らないようにしといてくれ」
パン、パン、パンとそれぞれに短く指示する錆兎。
それに3人が反応する前に、茂部太郎から事情を聞いた義勇が駆け寄ってきた。
「さびとっ!!」
「おう、なんだ?
一時的な措置だが大事な物は持っていけよ?
支度は茂部太郎に手伝わせろ」
「そうじゃなくてっ!!」
錆兎の言葉に義勇はぷくぅと頬を膨らませた。
「錆兎は俺を何だと思ってるんだっ!!」
言われて錆兎は首をかしげる。
「…俺を含む全銀狼寮の寮生の大切な姫君?」
と、それでも答えると、義勇は頷いた。
「そうっ!銀狼寮の姫君だっ!
銀狼寮の精神的支柱で御旗っ、そして寮生の心の拠り所だぞっ!
いつも錆兎が言ってただろっ!
それが学校を…銀狼寮を離れてどうするんだっ!
錆兎が…皇帝が戦いに赴くなら、俺は寮を…城を守るっ!
みんなが戻ってくる場所を死守するぞっ!」
その言葉に茂部太郎は拍手し、宇髄達他寮組は、おぉ~と感嘆の声をあげる。
その中で錆兎と炭治郎の兄弟弟子達だけ浮かない顔だ。
「でもな、俺もさすがに兵隊なしで金竜の高等部生全員相手にするのは辛いし、この寮の護衛にあまり人員を割けないから…」
錆兎が動けば当然銀狼寮全体が敵とみなされて、姫君が真っ先に狙われるのは火を見るよりも明らかだ。
そんな中で十分な護衛の居ない寮に義勇を残していくと言う選択肢は絶対に取れない。
そう説得するも、義勇の意志は固い。
そして…いつでも皇帝は姫君に頭が上がらないものなのだ。
心底困ってしまっていると、じゃ義勇、と無一郎が口を開いた。
「うちの寮生全員こっちに避難てことでどう?
元々の敵は居ないし、洗脳されても銀狼寮の寮生の傍に居れば大丈夫なんでしょ?
むしろうち単体で寮に籠っているよりも安全そうだし」
「あ~そうだな。そうしてくれ」
その提案に錆兎は乗ることにした。
それを聞いて不死川は彼にしては珍しく心底申し訳なさそうに眉尻を下げて言う。
「…うちの兵隊は…使えなくて悪い。
今回は連れて行っても残っても下手すれば寝返るからむしろ危険だしな…」
「それならさ、我妻を連れて不死川さんだけこっちに避難させてきたら?
寮長なら十分戦力になるでしょう?
僕と一緒で錆兎を裏切るってこともないだろうし…」
と、そんな不死川の様子に無一郎がポンと胸の前で軽く手を打ってコテンと小首をかしげながら錆兎に提案する。
それに錆兎も即頷いた。
「あ~、無一郎冴えているなっ!
それ一石二鳥じゃないか?
うちの寮に入れる人数を考えれば金は金の寮で待機で姫君だけは念のためってのも金の一般寮生への説明としてはおかしくないしな。
それで行こう!」
「んじゃ、俺もここでプリ3人と本拠地護衛マジ本気モード的な?」
「おう!頼むわっ!」
そうしてそれぞれの役割が決まると、不死川はそのまま自寮に。
宇髄は無一郎を銀竜に送りがてら自寮に戻り、錆兎は寮生の待つ広間に向かいかけるが、そこで義勇から
「ちょっと待っててっ!」
とストップがかかった。
「おう?あまり時間ないから待つけど急いでくれると嬉しいんだけど…」
と、それでもその場で足を止める錆兎。
それに目を止める間もなく走って自分の方の私室に飛び込むと、義勇はあるものを手に戻ってきた。
「これっ!着て行ってっ!!」
ジャ~ン!と広げられたそれは、白地に青銀の糸で狼の刺繍のしてあるマントだった。
誤変換&修正漏れ報告です。「自体を説明」→事態を…「香はそのまま」→不死川は…でしょうか?ご確認ください^^;
返信削除これ、金竜の美和君も高校で皇帝になったりするかもですね( *´艸`)
ご報告ありがとうございます。修正しました😄
削除そうですね。まだまだ先なのでどこまで体が出来て腕力が付くか次第で😊