「全員の確認終了。
結論から言うと小郎の排除は了承。
ただし…それに関しての責任は両虎寮で取ること。
つまり、俺達は3年に協力を求める見返りとして、小郎の排除という3年の側の条件を受け入れたという形を崩さないこと」
もちろん宇髄はそれに意義を唱えることはない。
「それはむしろありがたい。
こちらも、排除に成功するにしてもしないにしても、他の誰でもない、最上級生である両虎の寮長である俺達があいつを寮長としてふさわしい人材と認めていないということは知らしめておきたい。
たとえお前らに協力は求めたとしても、誰よりそう思っているのは俺達虎寮組だ。
ま、あとで童磨の洗脳効果も抜いてやってくれ。
あれは…正気を保ってんのが結構つれえわ」
きっぱりとそう言いつつも、最後は困ったように眉尻を下げる。
「まあそのあたりも…正気に戻すことは難しくないから速やかに人員を送る。
ただしそれがうちの人員のせいだというのは隠して欲しい。
下手をすると集中攻撃される」
「ああ、そのあたりはわかる。
まあ俺と違って童磨は下手すれば自寮以外は利用できるモンは利用しようとするところがあるが、そこは俺の方できっちり抑える。
俺らが卒業したあとにうちの皇帝になる煉獄に引き継がせるのに信用できねえ裏切者の寮にするわけにはいかねえからな」
と、彼の相方である金虎の童磨に対する対応も意見の一致をみたところで、錆兎は宇髄を連れてリビングへと戻った。
「…不死川は…まあ居るんだろうなと思っていたが、無一郎は正直驚いたな。
無一郎の方が頼っている感じだったから、錆兎の方から声をかけるとは思ってなかった。
それとも銀竜も何かあったのか?」
言われて無一郎は苦笑する。
「さすが宇髄先輩。
そう。今回は錆兎の方から声をかけられたんじゃなくて、俺の方が助けて欲しくて来たんだ。
正確に言うと、今回…じゃなくて、今年に入った直後くらいかな?」
と言うと、なるほど、と、宇髄は勧められるまま錆兎の隣に座って聞く体制に入った。
そこで無一郎が自分の側の説明に入る。
それはさすがに宇髄の想像の範囲を超えていたようで少し驚いたように時折り眉をぴくりぴくりと動かしながらも、表面上は驚いた表情も見せずに淡々と聞き入っているのが冷静さが売りの彼らしい。
そうして無一郎が話し終わると、まず、──事情はよくわかった…と一言言ったあとに、ソファの上で組んでいた足を解いて無一郎の方に少し身を乗り出すようにして口を開いた。
「最初に言っておく。
俺は父親も藤襲学園に幼稚舎から身を置いていて、俺自身も同じくだ。
そして親子共に友人知人交友関係のほとんどがこの学園の学生生活から築かれている。
つまり…この学園は実家も同然だし、こういう性格だからそうは見えないかもしれねえが思い入れは人一倍あるつもりだ。
だから今回の問題の解決に当たっては当然尽力するつもりだし、お前の方で問題がなければ、根本的な解決のために外部に連絡も入れて、親父が築いた藤襲学園OB達の人脈をも使いたいと思うが、どうだ?」
そうか、その手があったか…と錆兎は今更ながら思う。
渡辺家は決して人脈がない家ではないが、代々は藤襲学園の卒業生なわけではないので、この学園にがっつり思い入れがあるOB達の引き込みという発想がなかった。
その点、宇髄は親世代からのかかわりがある上に、実家も社交界では有名な家なので、確かにかなりの人脈を持っているだろう。
「お、お願いっ!
俺、爺ちゃんの学園を守りたいんだっ!」
と、もちろん無一郎がそれを拒否することはない。
そこで錆兎は不死川にも言う。
「実弥、そう言えば桑島老もそうだろ?
報告しとけ。
今回は通常出回っていないレベルの違法新薬まで使われてて学園内のいざこざじゃすまなくなりそうだし、一応、宇髄家は事態を重く見て介入に動く予定だと言うことも添えてな」
「あ~そうだな!洗脳は下手すれば俺自身がやばい奴になる可能性あるしなァ」
と不死川は即メールを打ち始めた。
「まあ…柏木亜子という敵だとわかっている奴が居るから、そこからたどって行けば黒幕に辿り着く可能性も高いしな。
敵を潰しておくなら今がチャンスだし、慎重に行くか…」
出来るなら味方である大人たちのフォロー体制が整ってから完璧に…と錆兎が出した結論に、とりあえずそこにいる面々も同意する。
「で…錆兎、質問いいか?」
すでに父親にメールを送り終わった宇髄が、唐突に言った。
「ああ?なんだ?」
まあ実家の人脈までつぎ込む時点で敵に回ることはないだろうし、と、なにごとも包み隠さないつもりで錆兎が聞くと、宇髄は
「不死川はわかる。
無一郎がいるのも大いに理解する」
と、それぞれの顔を見回しながら言うと、最後にモブ三銃士でぴたりと視線をとめた。
「で?こいつらは?初めて見た」
と聞く宇髄。
まあここに集まっているメンツは皆、それぞれに特別感のある人間なので、見るからに一般寮生と言った3人が居ることを不思議に思うのも無理はない。
しかし彼らは錆兎にとってはここに居る皆に負けず劣らないほど特別な人間なのだ。
それを主張しようと口を開きかける錆兎よりも早く、不死川が笑顔で言った。
「あ~、モブ三銃士かァ?
こいつら錆兎の隠し玉。
気が利くし仕事そつなくこなすし、何よりすげえのは寮長に対する絶対的な忠誠心。
もうマジうらやましすぎるぜェ。
俺もめちゃくちゃ欲しい」
「まあ、そういうことだ。
俺が炭治郎と同程度に信頼している最高の部下な?」
と不死川の言葉に錆兎がそう添えると、
「もったいなさすぎるお言葉っ。
俺ら今日が命日かもしれませんっ!」
と3人が揃って号泣した。
そしてしゃくりをあげながらも
「我々は皇帝と姫君の幸せのためだけに存在するモブなんですっ。
お二人を推し続けて早11年っ!
お二人を間近に見られて同じ空気を吸えるだけで幸せですっ!!」
と主張する。
「あ~、じゃあモブ三銃士、俺のためにもうひと働き頼むな?
宇髄にさっき皆に説明したことを説明してやってくれ」
と錆兎が言うと、
「承知いたしました!喜んでっ!!」
と、予備の資料を宇髄に渡して、今日1時限目からの2年の様子から昼休みの諸々までの説明を始めた。
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