最悪巻き込まれたくないと協力を断られる可能性は考えていたのだが、条件を出されることは正直想定の範囲外だった。
それでも出来れば協力が欲しいので
「…こちらの計画に支障がないことで、俺の一存で決められる範囲のことなら?」
と先を促してみると宇髄は言った。
「小郎を切る。
金竜のどこまでを切るかの判断は要相談だが、あいつはダメだ」
「あ~…それは前回の私怨…と捉えていいのか?」
前回…3年寮と同盟を組みながら初っ端から裏切って、小郎がこともあろうに3年寮の姫君を襲って怪我をさせたことで宇髄が激怒していたことは、錆兎としても記憶に新しい。
姫君を敬い守るのは寮長の責務…と言いつつも、ずっと一番傍で守っていれば情も沸くし、単なる仕事を超えて守ってやりたいという気持ちは痛いほどわかる。
だがイベント内の恨みはイベント内で。
その後に引きずらないというのが本来の姿だとも思うし、あのあと小郎は金銀虎寮の寮長二人にボッコボコにされたので、イベント後も…と言われると錆兎も諸手をあげて賛成とは言えない。
う~ん…と少し悩んでいると、銀虎寮長は錆兎が考えていたよりもずっと色々を考えていたようだ。
思いがけないことを口にした。
「…もちろん姫君の守り手としてあいつが許せないと言う童磨の感情的なものに賛同するという気持ちが全くないとは言わねえが、今の不安定な時期に藤襲の風習をないがしろにしているあいつを野放しにするのは危険すぎる」
「へ??」
驚く錆兎に宇髄は苦笑した。
「伊達に3年目じゃないからな?
今年に入って学園内がおかしいのは俺も童磨も気づいていた。
たぶん…学園長が替わったあたりからか…。
最初の交流イベも童磨の別荘で攻撃仕掛けてきた奴も、なにかしら同じ目的で動いているんだろう。
で、たぶん行事のたび何かしら仕掛けていて失敗してを繰り返して、今回の柏木亜子の投入というところだと思っているんだが…」
うわぁ…と思った。
そこまで気づいてたのか…。
もう舐めていた。
3年生を舐めすぎていたな、俺も…
…と、壮絶に猛省しながらも、なら何故今まで黙認を?と聞いてみると、宇髄は笑って
「自寮の姫君が一番だからに決まってるだろ。
後輩を助けてやりたい感が全くないわけではないが、下手に手を出すとうちのゴリプリはまだいいが、金虎の姫君の梅にも飛び火したら童磨がマジギレするからな。
残りの在任期間が長いならとにかくとして、1年もないということならスルーが正解だ。
そのあたり、童磨と相談してこちらに実害が来るまではスルーで今年いっぱい乗り切るぞという方針だった」
と白状する。
まあ…そういう理由なら責められない。
自分が同じ立場でもきっとそうする。
錆兎の生温かい笑みでその考えを察した宇髄は先を続けた。
「だが今回はそうも言ってられなさそうだしな。
俺や童磨も洗脳のターゲットに入っているとなれば、姫君の安全を守り切れない。
実際、柏木亜子を取り巻いていた馬鹿どもが、軍曹に怒られた村田が柏木亜子を置いて無一郎の飯を届けに行ったことについてブチブチ言ってたからな。
それについて、柏木亜子がきっと無一郎がひどく怒って軍曹をけしかけたんだろうみたいなことをもうちっとか弱く同情を引くような言い方で言ってたのを聞いて、寮長を落とすだけじゃなくて姫君を害そうとしている害虫女だとわかって、これはうちらの姫君にも同じことをされかねないと思った。
…で、このあたりで俺も汚染されたのかちょっと感情がぐらぐらになったんだけどな。
寮長は実務で寮を仕切り、姫君は象徴として寮に君臨する。
これは藤襲の伝統であり、絶対的な指針でもある。
もちろん賛否両論あるだろうが、少なくとも寮長はこの伝統を受け入れることを前提で様々な特権も名誉も手にしているのだから、寮長だけはたとえ最後の一人になろうと姫君を守るという責務を放棄すべきじゃあねえ。
…ってことでな、小郎が寮長であるべきじゃないというのは、そこなんだ。
姫君戦争の時、最悪俺と童磨を裏切ったのは道義的にはどうであれ、戦略的に絶対NGというわけじゃあねえ。
ただ、奴は自寮の姫君さえ見捨てて勝利に走ってるからな。
姫君を捨てる寮長と言うのは、この藤襲では絶対に許されないし、この学園の一番の指針であり良心であり責務であるそれを簡単に捨てる人間は、自分の利になると思えばどんなえげつないことでもやってみせるぞ?
寮長は確かに実務能力がある人間がなるものだが、だからと言って良識に著しくかける人間性が最低で尊敬できない奴がなっていいものじゃねえだろ」
「…なるほど、そこか…。
そうだよな…。
姫君を守ると言うことは学園の伝統と方針を守ることで…そのあたりを破壊しにきてる輩と戦うのにそこを全く気にせず平気で裏切る奴を置いておくのは確かに危険だな…」
宇髄の言葉で何故小郎を排除すべきとしているのかは納得が出来た。
言われてみればなるほどリスク管理上からも少なくとも小郎と一緒には戦えない。
「…もしその条件が飲めないとしても……」
と、錆兎は少し考えて言う。
「宇髄達3年組は当然柏木亜子につくわけでも静観するわけでもなく、自分は小郎を排除する方向で動くということだよな?」
「そういうことだ。
まあ…洗脳かけられるたびにお前のとこに解きに来ないとダメだけどな」
「ああ、それは…大丈夫なようにする」
「え?なにか方法があるのか?」
「あ~…まあ、たぶん?
てかな、こちらには俺だけではなくて色々集まってて…
小郎の件については俺だけでは判断しきれないから、少し他の意見も聞きたい。
ちょっとここで待っててもらっていいか?
中には身バレまずいあたりもいて…完全に全員晒して良いかも本人達に聞かないとだから。
でもって宇髄が今言ったことは、そちらに共有して大丈夫だよな?」
と念のため確認を取ると、なんだか確信をしているようで
「ああ、いい返事を待ってるぜ」
と彼はわりあいと穏やかな様子でそう言った。
誤変換報告です。前回からずっと宇髄さんが「宇随」さんに...^^;ご確認お願い致します(*- -)(*_ _)ペコリ
返信削除ご報告ありがとうございます。修正しました😀
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