無言で退室した錆兎が部屋に戻ってきたのは、それからほんの十数分後だった。
戻ってきた錆兎の手にはスマホ。
と言いつつも、少し不思議そうに小首をかしげる無一郎。
この状況なら来ていても別に不思議ではないんじゃないだろうか…と不死川は不思議そうにしている無一郎に不思議そうな視線を送るわけなのだが、続く彼の
「…の割には戻ってくるの早かったよね?
気づく前に取り上げたとか?」
と言う言葉に、なるほど、もし義勇が無一郎の所に来ていたようなメールを受け取っていれば動揺するだろうし、そんな義勇を宥めてきたのなら、錆兎が戻るのが早すぎるということか…と、ようやく合点がいって、不死川の興味は無一郎と同じく、それに対する錆兎の返答へと移った。
視線の先の錆兎は険しい表情をしている。
何もなかった…というわけではなさそうなので、余計に疑問の残るところだ。
それでも絶対に地雷を踏まないという自信がないので黙り込む不死川。
無一郎も尋ねたいことは口にしたとばかりに錆兎の言葉を黙って待つ。
しかしそのまま無言が続き、あまりに機嫌の悪そうな錆兎を前にいい加減、不死川が沈黙に耐え切れなくなりそうだったところに、空気を読んでいるのか読んでいないのか…いや、自身が空気のようなものだから怒りの矛先にならないという自信があるのだろうか…
モブ三銃士と呼ばれる実に影の薄い一団の一人…茂部太郎が
「メールですか?それとも電話です?」
と口を開いた。
「ああ、電話だ」
とそれに対して錆兎は一言。
それに対して、確か射人と呼ばれたもう一人が
「それは…姫君に聞かれる前に?」
といきなり核心をつくので、不死川はヒヤヒヤしたのだが、彼らは実に上手に地雷を避ける術を知っているらしい。
錆兎は淡々と
「義勇と同席させていた炭治郎に、柏木亜子から電話が来たら最初の応対を一言だけ義勇にさせて、あとはスマホを取り上げて録音しておけと命じておいたんだ。
俺が行った時には絶賛妄言吐いてる最中だったが、俺が出たら秒で切った。
まあ…暴言を録音も出来たしその後撃退はしたが、腹がたたないわけじゃないな」
とどうやら義勇のものらしいスマホをテーブルに放り出した。
「聞いてもいい?」
と手を伸ばす無一郎。
自寮の姫君に対する暴言なんて流したらキレるんじゃないかと青ざめる不死川。
「すごく不快な内容だと思うので、スピーカーとかじゃなくイヤホンでお願いします」
と、それにも絶妙の対応をする茂部太郎。
すげえな、モブ三銃士。
マジすげえ…
と、もう今回何度思ったかわからない感想をまた、心の中で繰り返す不死川。
本当に自寮にも3人ワンセットとまでの贅沢は言わない。
一人で良いから欲しいくらいだ。
「うん、じゃあそうするね」
と無一郎はイヤホンで内容を確認する。
そして一通り聞いた後、
「ようは、ただの男子中学生がちやほやしてもらえるのは姫君だからで、そんな規則に縛られて錆兎みたいな完璧な男が縛り付けられてるのは可哀そうって頭の悪い内容だね。
で、その錆兎に姫君って言うのはお仕えしたい相手を高校生が選んでて、その選んでいる高校生に錆兎自身も入っているんだけどって言われて、秒で切ったと…。
まあでもそうだよね。
別にくじ引きとかで決めたわけじゃなくて、選ばれてるわけだから、自分で愛でたいって決めた姫君を愛でてるのを可哀そうって、お前のオツムの方が可哀そうって感じだね」
と、冷ややかに言い放つ無一郎。
不快感をあらわにしている錆兎も怖ければ、笑顔なのに笑顔じゃない無一郎も怖い。
なんだか柏木亜子よりも彼らから逃げたい気分になって、現実逃避をするように、だいぶ冷めてしまった紅茶をすすると、──あ~…うめえ…と、誰にともなくつぶやく不死川だった。
皇帝(他寮)よりも姫君(他寮)よりも温かい冷えた紅茶…^^;
返信削除錆兎は普段の注意適度の事では声高だけど本当に怒ると冷ややかになるイメージ持ってます。無一郎は…常に冷ややか😅
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