寮生は姫君がお好き1005_不穏

あれだけ警戒していたのにあっけないほど平和な時間が過ぎ、いつものように弁当を手に義勇を迎えに中等部に向かう錆兎。

授業終了が5分ほど長引いてしまったので、お腹を空かせているかもしれないと思えば自然と足も早まっていく。

まあ、いつもはこの時間は義勇を錆兎に任せて、炭治郎はさっさと食事を済ませたあとに自主トレに励むのが日常なのだが、今日は何が起こるかわからないと思っていたので、休み明け初日だから…と理由を付けて、炭治郎にも昼休みいっぱい一緒に居てもらうことになっていることもあり、心細い思いはさせていないと思いたい。

しかし拍子抜けするほど何もなく午前中が終わり、もしかして杞憂だったか?炭治郎のトレーニングの時間を割いてもらって悪かったか?と思いつつも3人分の弁当を手に中等部に足を運んだ錆兎は、そこで本日初めての異常を目にすることになった。

高等部の校舎から中央校舎を抜けて中等部の校舎へ。
そこからは3,2,1年の順番で教室があるのだが、どうも2年3年の様子がおかしい。
ざわついている。

不思議に思いながらも錆兎の最優先事項は自寮の姫君だ。
だから義勇を待たせないようにと早足で2,3年の教室を通り過ぎようとしたのだが、2年の教室の前を通った時に、中から無一郎が飛び出して来た。

「錆兎っ!!」
と、他寮とは言え姫君に名指しで呼び止められればガン無視も出来ない。
仲良くしなければならないという法はないのだが、あまりに邪険にすれば姫君を戴いているその寮全体に喧嘩を売る行為とみなされる可能性がある。

なので錆兎は仕方なしに
「なんだ?
すまないが俺のクラスは今日は少しばかり授業時間が伸びて迎えが遅れがちだから、早く義勇と合流したいんだが…」
と暗に急いでいるので後にして欲しい旨を告げると、無一郎はどこか不安げに
「…もしかして2年も授業終了が遅れてたりする?」
と聞いてきた。

「いや?俺が教室を出た時には2年も3年もそれぞれ教室の外に出てた気がするが?
どうしたんだ?」

2年…という言葉に錆兎は反応した。
例の新任の女教師が担当しているのは確か2年の授業だ。

「うん…まだ村田が来なくて……」
と綺麗な形の眉を八の字にして困った顔で言う無一郎に
「姫、寮長の事は俺が待ってるし、他が言うようにクラスの寮生が護衛するから、今日はカフェテリアにどうぞ?」
と、どうやら無一郎の寮、銀竜寮の寮生が気づかわし気に姫君無一郎を囲む。

「…でも……」
とそれにやはり気になるのか気乗りしない様子を見せる無一郎。

「あ~、じゃあ、こうしよう!
今日は炭治郎も一緒だから弁当もかなり多めに用意してるし、俺達と一緒に飯にするか?
義勇も無一郎が居ると喜ぶし、いったんお前を義勇達に合流させたら、俺が2年の校舎に村田を探しに戻ってやるから」

「いいのっ?!
そうしたい、錆兎っ!!」
その言葉にようやく笑みを見せる無一郎。

他の寮の人間なら若干警戒を見せるところだが、いざ戦闘イベントという時以外の日常では公明正大正々堂々で知られる銀狼寮の皇帝は信頼度が違う。

銀竜の中等部生達も
「ありがとうございますっ!
なら俺らも少し離れて中庭に陣取りますっ!」
とホッとした様子だ。

こうして錆兎は無一郎をエスコートしつつ後ろに銀竜の護衛達を引き連れて1年の教室へ。

その集団を見て義勇は丸い大きな目をさらにまんまるくしていたが、集団の中に無一郎を見かけて、ぱぁっと花がほころぶような笑みを浮かべた。

そして炭治郎の横から軽い足取りで走って来て
「錆兎っ!今日は無一郎と一緒にご飯?!」
とキラキラした目で言うので、錆兎まで笑顔になってしまう。

「ああ。なんだか少しばかり村田が遅れてて連絡つかないようだからな。
俺はこれからちょっと高等部の校舎に探しに戻るけど、無一郎も腹が減るだろう?
だから悪が無一郎と炭治郎と一緒に先に食っててくれるか?
俺は食うのが早いし気にしないで良いから」

そう言うと義勇は少し困ったように…でも無一郎が空腹になるからと言えば待ってると言い張ることもなく、
「うん。
じゃあ錆兎の分はちゃんと残しておくし、戻ったらお茶もいれるから早く戻ってきて」
と素直に錆兎を送り出した。









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