寮生は姫君がお好き1003_茂部太郎と姫君印の香水

ぜひ姫君に献上したい物があるので直接会って話をしたいという茂部太郎の要望で、錆兎は自分の方が彼の部屋に出向く。

もちろん自室の方へ持って来させても良いのだが、万が一姫君に相応しくない贈り物だった場合、絶対に義勇の目に触れさせるわけにはいかない。
自分のための贈り物…と聞けば、錆兎の心優し気姫君はきっと無下にはできないだろうからである。

ということで、前代未聞、寮長…皇帝の方から一般寮生の方へ出向くなどという事態に非常に恐縮する茂部太郎の部屋を訪ねてみれば、そこには錆兎がモブ三銃士と名付けた、自称モブ学生3人組。

自分達は飽くまでモブなのだと言い張るのでそう名付けたわけなのだが、実はこれがこれまでもなかなか痒いところに手の届くような素晴らしい活躍をしてくれているので、錆兎は炭治郎の次くらいには彼らを買っていた。

錆兎が茂部太郎の部屋につくとそんな彼らは3人勢ぞろいしていて、勧められるまま椅子に座る錆兎の前の床で正座。

なんだ?それは?
何かお仕置きされるようなことでもしでかしたか?
と聞いてみたい気もするが、まあここはふざける時ではないだろう。

「姫君に献上したい物があると聞いたが?」
と、椅子で足を組みつつひじかけに肘をついた状態で彼らを見下ろしながら聞いてみると、

「はいっ!こちらでございますっ」
と茂部太郎がひざまづいた状態で手にしたガラスの小瓶を高々と差し出して来る。

「…なんだ?」
錆兎はそれを受け取ると、綺麗な細工の小瓶の蓋を開けて顔を近づけた。

「…これは……」
とたんに漂う芳しい匂いに普段はあまり表情を変えない錆兎の藤色の目が丸くなる。
それは素晴らしく甘美で柔らかく…それでいて爽やかで…この世の全ての好ましい要素を取り入れたような、そんな香りだと思った。
そして何よりなんだか大切な自寮の姫君を思わせる。

「…なるほど。
義勇をイメージした香水か。
よくここまで的確に作り上げたな」

心の底から感心してそう言うと、3人は嬉しそうに顔を見合わせて笑った。
そして茂部太郎が実は…と口を開く。

制作年月なんと7年強。
元は彼らが何より好きだったアニメのヒロインのイメージで作っていたものだった。
そしてそのヒロインと自寮の姫君が激似で自分たちの半生を捧げてきたヒロインの生まれ変わりだと思って姫君にお仕えしていると言うのである。

普通ならオタク以外は引いてしまいそうな話だが、錆兎にそのあたりの偏見はない。
…というか、むしろそのアニメについて興味がわいて色々聞いてしまった。

そこでモブ三銃士が喜んで見せてくれたヒロインは綺麗な黒髪に真っ白な肌…そして何より澄みきった大きな青い瞳の持ち主という外見はもちろん、おっとりとしているのに意外に頑固で…でも一生懸命で優しい性格など内面もなるほど自寮の姫君に激似で、年齢的にありえないのだがよもやモデルにしたのか?と思うレベルだ。

そしてその相手の主人公のカインと言う青年は茂部太郎達に言わせると自分に似ていると言う。
確かに宍色の髪に藤色の瞳とあまりない組み合わせの色合いの持ち主で腕が非常にたつという設定は自分と同じだが、そこに美形でモテるという設定が入ると錆兎的にはそこはどうなんだ?とやや疑問が残ってしまうところだ。

色男でモテると言うのは銀虎の宇髄のような男のことを言うのである。
義勇は優しいから錆兎のことをカッコいいといってはくれるが、自分では各種能力が高いことは認めるが、その他は別にカッコ良くもなければ普通の男だと思う。
ああ…そう言えば炭治郎も錆兎のことをカッコいいとか言っていたが…まああれは弟弟子だから?

まあ自分自身のことはどうでもいい。
錆兎自身は義勇にとって…そして寮生達にとって不快に思える人物じゃなければどうでもいいのだ。

寮長の条件はカッコいい事ではない。
信頼できることだ。
とそんなことを思いながら、茂部太郎のタブレットで一緒にアニメ観賞に興じる。


「このアニメ、いいな」
と盛り上がること数時間。

「というか…俺もこの香水欲しいんだが…
いや、費用は負担するからこれを寮生分作らせてくれないか?
銀狼寮の寮生全員でこの香りをつけないか?」
と言うと、茂部太郎は資産家の息子なので費用などは別にいいからぜひ!と申し出る。

常に姫君と共に在るつもりで寮生全員が姫君の香水を…
と、その日の夜にはとりあえず今茂部太郎が持っている分を寮長からのそんな説明付きで寮生全員に配布した。

もちろん寮生はみな敬愛する姫君の香水ということで喜び、義勇もその良い香りと寮生皆一緒と言うことで喜び、そして錆兎は不穏な新学期前に寮の結束と姫君の気持ちを高められることになり、茂部太郎に大いに感謝をすることになる。

そして…その時にはまだ予想もしていなかったのだが、この試みに銀狼寮の寮生は大いに助けられることになるのであった。










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