寮生はプリンセスがお好き10章12_秘密兵器は無臭の香水

初日…胸元にリボンのついたフェミニンなブラウスにピンクのフレアスカートと言う清楚系ファッションで自信満々でシャマシュークの2年の授業に臨んだアンだったが、いきなり学生達の冷ややかな視線と態度の洗礼にあった。

自分は大学を卒業してそう経っていなくて、皆さんに対しては教師と生徒というより、まだ学生の先輩のような感じで…と、親しみを持ってもらおうと若さをアピールしてみるも、

「あ~、そういうの良いですから。
教師のプライベートに興味はありません。
速やかに授業を始めて下さい」
と、一刀両断されてしまった。

それを言ったのは金竜寮の寮長だ。
2年のトップに立つ学生がそう言えば、当然周りもそれに同意する。

この時点で若い新任の女性教師に興味津々の男子高生達というアンが思い描いていた予想を大きく外れてしまって、驚くと共に途方にくれてしまった。

他の学生を見渡してみても、寮長が言うから…という消極的な賛成というよりは、本当にアンに興味を持っていないのが見てとれてしまう。

悔しい!と一瞬思い、しかし闘争心にはしっかりと火がついて、こいつらを絶対にひざまずかせてやる!とアンはJSコーポレーションから渡されたペンの形のアトマイザーを握り締めた。


「ごめんなさいっ!窓閉めてくれる?
花粉症の薬飲み忘れちゃって」

エヘヘっと自分的に可愛らしく笑いながら言うと、窓際の学生が黙って立ち上がって窓を閉めていく。
そこでこっそりアトマイザーをプッシュ。

中身は強い媚薬効果のある…しかし無臭の香水とのことで、学生の気持ちを掴めなければ使えと支給されたものである。

それを差し出された時にはこんなものを使うまでもないと豪語したのだが、もらっておいて良かった。

こんなしょっぱなからつまずいているようでは、寮長達の逆ハーレムどころか、一般生徒の一人ですら落とせないかもしれない。

アンのプライドはかなり傷ついたが、将来の玉の輿のためだと思えば些末なことだ。


しかしながら、これで効果がなければ詰む。
なので香りがこもるように窓を閉め、さらに早く効果を知りたくて

「じゃあ授業を始めましょう。
まずこの問題を解いてみて?」
と、白板に問題を書いてさきほどの金竜寮の寮長ロディを指名してみた。

それに対して白板に書かれた問題にチラリと目をやり、馬鹿にしたようなため息をつくロディ。
それでも立ち上がって前に出てくる。

カツカツと音をたてて淡々とした様子で問題の答えを書いていく彼にアンはもしかしてこれもダメだったのか…と内心青ざめたが、彼はペンを置いたあと、アンを振り返って

「先生、さきほどの発言は失礼でした。
申し訳ない。
前任の先生がかなり優秀な方だったので、俺を含めて皆、その先生の授業を受けられなくなってがっかりしていたんです。
でもそれは別に先生のせいではないし、八つ当たりでした」
と謝罪の言葉を述べてくる。

これは…どちらなのだろうか。
香水が効いているのか、あるいは単に彼が自身で言っているように理性的に考えた上での謝罪なのか…。

アンがどちらともとりかねて曖昧な笑みを浮かべると、

「ようこそ、シャマシューク学園へ。
歓迎します」
と、いきなり取った手に口づけられて、アンは大企業の寄こす最終兵器の確かな効力に心の底から安堵したのだった。










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