結局…浜田はその後自首をして、全てを自白した。
動機は痴情のもつれ。
浜田は天野に手を出したものの、別の生徒が気になりだして天野に別れを切り出したが、別れるなら関係を学校側にばらすと脅されて殺そうと思ったらしい。
別れ話をいったん撤回して謝って、実は宮川に誘惑されたと嘘をつき、天野に宮川を挑発させて、トリックを決行したことも自供した。
「全くだよなぁ…愛を舐めてんだろ、愛を」
宇髄の部屋に当たり前に4人集合して、二つのパピコをそれぞれ半分こして、ひそかにお疲れ様会をしながら、錆兎がひそかに本部から聞いた浜田の自供について聞いて、村田と宇髄はご立腹だ。
「まあ…花壇に氷捨てたなんて嘘あっさり信じてくれて良かったけどな。
本人が自供しないと証拠はもうないし…。」
「まあな~。結構危ねえ橋だったよな」
犯人が動く前提での罠だったので、かかってくれなかったら立件出来ないところだったのだが、花壇前で土を入れ替えているところ、そして宇髄の部屋に忍んできてからの一連を動画で提出しているので、なんとか収まったというところだ。
まあ事実が明らかになれば多少強引な事もやるのが”裏教育委員会”なわけだが…。
「まあいいんじゃないか?宇髄の濡れ衣も晴れたわけだし」
終わった事件に関しては本当にどうでもいいらしい…というか、今回の事件で義勇との距離が著しく縮まって機嫌の良い錆兎がそう言うと、それまで黙ってうつむき加減でパピコをくわえていた義勇が顔をあげた。
「でも…やっぱり錆兎と宇髄より錆兎と俺が事件の追い込みやった方が良くなかったか?
別に宇髄が悪いわけじゃないのに、居にくくならないか?
それに……俺だって学園警察なのに…」
義勇が唇を尖らせて不満げに呟いた言葉に錆兎は浮かべていた笑顔をひきつらせた。
本人のやる気は認めるが、義勇ほどこの仕事に向いていない人間はいないんじゃないだろうか…と心の中で大きなため息をつく。
案の定、宇髄が目をきらりと光らせて
「ただ者じゃねえと思ってたけど、やっぱ錆兎、ただの転校生じゃなかったんだな?」
と身を乗り出した。
義勇が口を滑らせた瞬間、錆兎はすでに考え始めていた。
宇髄も村田も突っ込みを入れて来なければ、さして興味はないのだろうと思う。
それでもいきなりその言葉を思い出して口にしてしまうこともあるだろうから、こちらから義勇とのちょっとしたごっこ遊びのようなことをしていたと言うつもりだった。
問題は…突っ込みが入った時だ。
興味がない時と同様の言い訳でも村田は引いてくれるだろうが、宇髄はおそらくひいてはくれまい。
そうなるとどうするか…。
義勇は学園警察に向いていない。
それは錆兎も思うし、素直に辞めるか現場仕事から引いてくれるなら義勇の身の安全は保障されるし、それが一番だ。
しかし義勇自身が現場にこだわっている以上、錆兎としてはその意思を尊重してやりたい。
となると…これを義勇のミスとして報告は出来ない。
じゃあ自分がそんなミスをしたと言って周りが信じるか…いや、信じないだろう。
そうするともう手は一つしかない。
ほんのわずかばかり錆兎が考えを巡らせている間、義勇はさすがに自分の失言に気づいて青ざめた。
そしてどうしよう…?と泣きそうな目を向けてくるので、錆兎はその肩をポンポンと叩いてなだめてやる。
「あ~大丈夫だ。
俺の一存で…バラすつもりだったから」
と言う言葉に義勇は半信半疑といった感じで
「…そうなの?」
とそれでもやや心細げに聞いてきた。
それに錆兎は頷いて、そして宇髄と村田に視線を向ける。
「政府が通常手段では解決困難な学校内の事件の捜査をさせるために秘密裏に作った団体、裏教育委員会というのがあってな。
そこで働くのは潜入先が学校なだけあってほぼ学生。
で、その構成員である学生のことを学園警察と言う。
俺と義勇はその一員だ。
ということで宇髄の好奇心は満たされたと思うが…」
とそこで一息つくと、宇髄は感心したような…それでいて少し満足げな顔をして、村田はただただ驚いている。
「…それは…扱いは公務員って感じか?」
「…ま、そうだな」
「給料は?」
「最低限の衣食住は支給されてて、小遣い程度の基本給と…あとは能力給?」
「お前…結構もらってるよな?」
「…あ~…大きな声では言えないが…入ってあまり経っていないが、成績プラス武道経験、あとは数か国語話すからそのあたりを買われて、初っ端の査定がリーマンの平均年収くらいで、その後小さなソロ任務こなした時点で倍にアップしたところだ」
「え??そんなにもらってるの???
俺、基本給だけなんだけど……」
錆兎と宇髄の会話を聞いて義勇が目を丸くした。
それに錆兎は
「大丈夫。俺の財布はお前の財布みたいなもんだから気にするな」
と笑う。
「そっか。そこは演技とかじゃなかったわけな」
とその錆兎の言葉に宇髄が苦笑した。
そんな風にやや和やかな空気が流れかけた時、錆兎が腕を組んでやや上から見下ろすような目線で少しシビアな空気を醸し出す。
それに村田は思わず身を固くした。
「…というわけでな、俺からの提案は二択。
俺にスカウトされるか、このことに一切触れずに全てを忘れて普通の学生に戻るか」
「俺はお前らと行くぜ?」
とそこで宇髄が即答し、
「…俺は……学生続けるかな」
と村田が少し困ったように笑いながら言うのも予想通りだ。
それぞれの選択に任せてもいいのだが…と二人を眺めつつ錆兎は思う。
そして、すまんな、と、心の中で謝罪。
「あ~…念のためな?
宇髄はもう良いとして、村田、ないとは思うんだが万が一だが、とんでもない悪人が今後俺達のことを知って俺達に接触したことのある人間を探してお前に辿り着く可能性がないとは言えない。
つまり普通の学生として残るということがすなわち安全とは限らないから、そこは覚悟しておいてくれ」
そう…万が一、村田の口からいろいろ洩れたら義勇の責任問題になる。
出来れば…いや、絶対にそういうリスクは回避しなければならない。
「ちょっ!
それってもう、俺も行くしかないってことじゃない?!
ぜんっぜん2択じゃなくないっ?!」
錆兎に不穏なことを非常に良い笑顔で言われて村田が頭を抱えると、錆兎は、いやいや、と、さらに笑って言う。
「飽くまで普通の学生と言う身分に未練があるなら、危なくなった時にフォローが入るとかそういう保険をかなぐり捨てても貫くという選択もあるぞ?」
「お前、俺がそんなド根性あるわけないの知ってて言ってるでしょっ!
もうやだ、この天才様はぁぁ~~!!!」
こうして結果的に義勇に引き込まれる人間が二人ほど増える事になる。
「義勇は…なんというか不思議な子だよね。
錆兎の時と言い、自分があまり戦闘向きじゃないにしてもピンポイントで優秀な人材を集めてきてくれる。
これはこれで貴重な才能なんじゃないかな」
単純な能力給以外に何か手当てを考えた方がいいかもね、と、報告を受けた産屋敷はそんなことを呟きながら、また、ろくに案件も読まずに勘を頼りに依頼書をひょいっと選び出すのだった。
── 完 ──
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