「君たちは一体……」
縛られて床に正座をさせられた状態で呆然とする浜田に、宇髄は
「まあ、話そうぜ、先生」
と、自分のベッドに腰をかけた。
と、そこで村田が立ち上がって、備え付けの冷蔵庫からミネラルウォータのペットボトルを出し、製氷機の氷をピッチャーに移し、未開封の紙コップの束を持ってきた。
そしてまず紙コップを開け、二つのコップに氷を入れ、水を注いで、一つを宇髄に渡し、一つをテーブルに置く。
「ま、乾杯ってことで…」
と、宇髄は自分のコップをテーブルのコップに軽くあてて、その中身を飲み干した。
そして先生もどうぞ?と、浜田の口元に持っていくが、浜田が口を閉じたままなので、
「毒なんて入ってやしねえよ。今俺が目の前で同じモン飲んだだろ?」
と、笑って鼻をつまんで苦しさに浜田が口を開けたところで、一口水を流し込んだ。
「君たちっ、教師にこんなことをしてどうなるかっ…」
ケホケホとむせながらそういう浜田の言葉に、宇髄は
「意味なく生徒の部屋に無断で入り込んで私物盗もうとした挙句、それ目撃された生徒を口止めにレイプしようとした教師ってほうがやばいんじゃね?」
と、肩をすくめる。
そこで浜田はグっと黙った。
「とりあえず、話を進めんぞ」
と、宣言して、宇髄はコップを置いて浜田のほうを向き直った。
「11月半ば、学園祭で主席の宮川が3位の天野に渡された毒入りジュースを飲んで死んだ事件な、あれが冤罪じゃ?って話が出た。
それで二人がいなくなって得すんの誰だ?2位の俺だろって事で、俺が犯人説とか出てめっちゃ迷惑してんだ、こっちは」
「あれは…状況的にも天野が…」
「それは間違だ。ちょっと黙っててくれ。話しならあとで聞く」
口を挟む浜田を宇髄はギロリとにらんだ。
「…ってわけで、ここからは頼まぁ」
と話が細かくなるあたりで宇髄は錆兎に場を譲った。
そこで錆兎は
「さきほどの義勇とのやりとりは録音済みだ。
これを校内放送で流した挙句警察に流されたくなければ黙って聞け」
と怒りを押さえたような声で脅しをかけた上で、話を始めた。
「まず宮川が死んだ毒はどこに仕込まれていたのか、そこから始める。
もし天野が犯人だった場合、自分しか触ってないジュースのコップに仕込むという時点でもう、身バレ覚悟だろう。
ならば、わざわざタイミングが掴みにくい、途中で注ぎ足す時に相手が持っているコップに入れるなんて真似しないでも、自分が持ち歩いているジュースの方に毒入れる方が確実だ。
注ぐというのは相手が飲み終わった時にするものだから、相手の都合でタイミングが変わるしな。
そこからして不自然だ。
ではコップに直接入れたんじゃなければ、何に毒が入っていたのか……
事件当時、お前が宮川と乾杯したのは同じ未開封の束から取った紙コップに同じピッチャーから入れた氷、そして同じペットボトルから注いだジュースだ。
ここでお前が死ななかった事で、みんな当たり前にそこには毒が入っていなかったと思った。
そして実際宮川の死後、警察が調べたらそれらからは毒が検出されなかった……とされているわけだが……本当にそうか?
天野が宮川に掴みかかった騒ぎでペットボトルとピッチャーとカップが床に落ちた。
宇髄や村田の話では、ペットボトルは蓋がしてあったため中身は無事で、カップは床に触れた分は捨てたが、あとで捨てた分もゴミ箱から出して調べた…だけど氷は?
宇髄はその時はそんな事になるとは思わなかったから、普通に落ちた氷を拾って捨てて、落ちたピッチャーを洗った。
そして残ったピッチャーの分は調べたが、肝心の宮川が飲んだ氷の入ったピッチャーのは調べてないのだろう?」
「し、しかし、そこから天野が無作為に入れた氷の入ったジュースを私も飲んでいるんだぞっ!」
「そう…入れてすぐ飲んでる…」
「何が言いたい?」
「氷って内側外側、どちらから凍るかわかるか?」
「………」
「外側から…だよな?
でもってだ、凍る途中だと外側だけ凍って中が液体状の氷ができる。
製氷機の半分くらいの量でこれを作ってだ、中の水を捨てて異物をいれて、製氷機の半分くらいの高さの氷で蓋をして、わずかに水を足してくっつけると…中心部に異物の入った氷の出来上がり。
これを使えば、氷を入れて即飲めば、まだ毒が溶け出さないから死なずに済む。
でもずっとそのコップで飲み続けてれば当然氷は解けて中の毒も飲み物に溶け出すって寸法だ。
ってことで…この仕掛けをできたのは、氷を用意した人物…お前ということなんだが?」
そろそろいいだろうと、錆兎は宇髄にだいぶ氷の溶けたコップの水を飲み干すように指示し、浜田にも同様に飲ませようとするが、浜田は慌てて首を振る。
「毒じゃねえよ。
たんに今の仮説を実証するため氷の中心に砂糖入れただけだって」
と苦笑する宇髄がまたコップを口に持っていくと、今度は浜田もおそるおそるそれを飲み干した。
そして言う。
「あんな仮説を聞かされたら誰だって飲むのを躊躇するだろう。
こんなんで証拠にはならないぞ?」
「ああ、それはそうだ」
その言葉も想定の範囲だったので、錆兎は小さく笑った。
しかし次の瞬間笑みが消え、藤色の目がキラリと光る。
「お前には運が悪いことに、あの日…氷を片付けたのはこの宇髄なんだ」
「………」
と、そこで当時の状況を語るべく、錆兎は今度は宇髄に説明役を返す。
「毒入りの氷なんて知らねえから、これもエコ~とか思ってな。
床に落ちて口にすることはできなくなった氷を、窓から花壇に向かって落としたんだよ。
まあ結果的に毒の入った水を撒いたら…花は枯れるよな?
んで、土には毒が残る…。
昨日俺が外出許可とる時に学年主任に花壇に氷ばら撒いた事を話したのを、当然隣の席のあんたは聞いてたはずだ。
そこであんたは気づいた。
土を処分しねえとまずい」
と、そこでまた主導権は宇髄から錆兎に。
「というわけで、処分しないとまずい土は花壇と俺の部屋の植木鉢にあるって事もその時知ったお前は、まず昨日の夜中に花壇の土を入れ替えて、今日、宇髄が天体観測で夜中まで屋上にいるって事で、宇髄の部屋に忍んできたってわけだよな。
言い訳はできないぞ?
さっき言った通り、お前がここに来てからの諸々は全て録画録音してある。
で、お前は義勇にはっきり“誰にも知られずにあの植木鉢を手にいれたい”って言ってしまっているからな。
まあそこで土から毒が検出されればチェックメイトだ。
どうする?
自首するか、あくまで逃げるか。
自首の方が若干罪軽くなるだろうが…」
腕組みをして立ったままそう言って見下ろす錆兎に、浜田はがっくりとうなだれた。
0 件のコメント :
コメントを投稿