(…義勇、寒くないか?大丈夫か?)
(…別に大丈夫だ。)
(…こうしてれば暖かいか…?)
ゴタゴタのうちに有耶無耶になったが、あの日錆兎が怒っていたのは確かだ。
結局怒っていたのは義勇のことが好きで心配してくれていたからだとわかって心底ホッとしたし、不謹慎だが嬉しかった。
今思い出してもなんだか嬉しさがこみあげてきてムフフっと笑いながら、後ろから義勇を抱え込んで自分のコートに一緒に包み込むようにして待機している錆兎を見上げれば、その視線に気づいた錆兎は
(…あまり見るな…)
と、フイっと顔を背けた。
…えっ?まだ何か怒っているのか?
そう思ってそれを口にしてみると、錆兎がぽかんと目を丸くした。
そして何度か口を開きかけてはつぐみを繰り返し、最後にやっぱり顔を背けたまま言いにくそうに小声で言った。
――…やきもち…
え?
顔を背けているため義勇からはよく見える耳が真っ赤だ。
「お前がいきなり知らない男と仲良さげだったから…面白なかったんだと思う。
他に言った諸々は言い訳だ。
きちんと謝ってなかった。すまん」
嫉妬なんて男らしくない、みっともない…と、ため息をつく横顔が何故だか大人びて見える。
義勇を抱え込む腕に少し力が入って、さらに距離が縮まった。
「お前は俺が成り行きでお前の世話をしているように思っているようだが、俺はお前が思っているよりずっとお前の執着している。
よく考えてみろ。
一緒に居るかどうかの拒否権があったのはお前ではなくて俺の方なんだぞ?
どちらかと言うとお前の方が俺に押し切られたというのが正しいだろう」
「え…」
あまりに意外過ぎて義勇はぽかんと口を開けて固まった。
いや、そう言われればそうかもしれないが…
「錆兎は何でもできるしカッコいいしモテるから、半分同情なのかと思ってた…。
べ、別に同情でも一緒に居てくれればぜんぜん良いんだけど…」
そうか…とりあえず錆兎は自分の方が義勇のことを好きになのだとおもってくれているのか…。
もしかしたら勘違いかもしれないが、それならそれで勘違いだと気づかせないようにしなければならない。
いや…一生気づかないと言うのは無理かもしれないから、気づいても諦めてくれるように…
そうだ!
そう言えば姉さんが言ってた。
そういう時は既成事実を作るのが鉄板ならしい。
少女漫画の年齢を過ぎて少し大人な本を読み始めた姉はよくそんな話を読んできゃあきゃあ騒いでいた気がする。
そうか…既成事実か…。
これは一刻の猶予もならない至急の事態だ。
──錆兎…
義勇は決意を胸に錆兎を見上げた。
──なんだ?
いきなり真剣な顔で自分を見上げる義勇を不思議な顔で見下ろす錆兎。
その藤色の目をしっかりみながら義勇は言った。
──これから既成事実を作るぞ!そして責任を取ってくれっ!
──………
──………
──………
──今っ?!ここで??!!
義勇はこんなに驚いた、そして複雑な表情をしている錆兎をいまだかつて見たことがない。
いわゆる間抜け顔というやつなのだろうが、そんな顔をしていてもやっぱり錆兎はカッコいい。
一日24時間、一年365日、常にカッコいいのである。
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